“児童養護施設の退所、18歳“から見える課題    連鎖を産まない、自立支援のあり方

第2回大田区議会定例会で一般質問に立ちました。

1年間に4回の議会がありますが、一人の議員にはその1年間の中で“40分”という質問時間が与えられています。(なんて少ないのでしょう!)この貴重な40分のうち、今回、私は、18分を使って、表題の児童養護施設の問題を質問いたしました。

18 歳で選挙権を与える法案が通りましたが、民法では20歳を成人としてみなすので、18歳ではできないことがいろいろあります。たとえば18歳で施設を退所 して、自活していかなければならないのに、家賃の安い都営住宅や区営住宅は“成人ではないから”という理由で借りられないとか・・・。
しっかりとした支援体制を創らないと悲しい連鎖が続きます。


以下質問全文です。

児童養護施設から18歳から見える課題

児 童養護施設は、児童福祉法に定める児童福祉施設の一つであり、保護者のない児童、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させて、これを養 護する施設です。大田区には、聖フランシスコ子ども寮と、救世軍機恵子寮の2つの施設がありますが、東京都が設置している施設なので、なかなか施設の状況 を私たちが知り得る機会はありません。しかし、2つの施設を合わせて100人ほど在籍する子どもたちは、親の住所は他の自治体であっても、子どもはその施 設から、区内の幼稚園、小学校、中学校、区内ではないかもしれませんが高校に通う子どもたちでもあり、私たちは、一般家庭の子どもと同じようにその健やか な成長を願うものです。

2つの施設の状況を伺い、実態と課題を聞く機会を得たことから、大田区として何ができるのかを考えたいと思いまし た。まず、現在入所してくる子どもの7割が家庭での虐待がその理由で、15年前と比較して、5倍も増えているということです。ネグレクト、育児放棄、暴 力、性的虐待を受け続けてきていた少女も少なくありません。

親から虐待を受ける、ということほど、子どもの成長を阻害し、心に受けた深い 傷をいやすことが難しいものはないのではないでしょうか。施設職員の話では、児童相談所を経て施設に入所してくる子どもたちは、人や社会への不信感が強 く、職員との信頼関係を結ぶのにも時間がかかり、例えば、始めは、職員を試すために反抗や罵倒を繰り返し、やっと10年かかって関係が作れた、などという 例もあるそうです。本来、自分を守り、愛してくれるはずの親から、心理的にも捨てられる、という経験は、成長の土台でもある、この社会への肯定感、自分自 身への肯定感が育まれなかったという大きなハンディーとなっています。基本的生活習慣を身につけてくることなく、さらに、ずっと暴力を受けて育ってしまっ た少年は、この社会は暴力で人を支配してもよい、という価値観さえ持つように至っていたり、小さいころから性的虐待を受けてきて、屈折した世界しか知ら ず、生きる意味を見いだせずにリストカットを続けてきている少女が、安定した情緒を得て、社会の中で生きていけるようになることは並大抵のことではないこ とが想像できます。

しかし、この施設の子どもたちは、18歳になると、施設を退所しなければなりません。特例で20歳まで施設にいられる 措置もありますが、知的障害があるなど、社会への適応が相当難しい場合に限られ、入所児童がたくさん控えている状況からは、施設に残るということはほとん ど考えられないとのお話でした。

18歳で退所した青年たちは本当に自立して、しっかりと社会生活を営んでいけるのでしょうか。
東 京都の平成23年の調査によると、施設を出た人の最終学歴は、大学や専門学校が15%です。一般における最終学歴は、大学や専門学校が65%ですから、施 設をでた青年が、大学に進学することがいかに難しいかがうかがい知れます。家賃を含めた生活費を稼ぎながら、学費を賄うということはそう簡単なことではあ りません。結果、施設を出た青年のほとんどが、就職をするわけですが、ほとんどが非正規雇用であり、収入を見ると、手取り15万円以下が46パーセント、 20万以下が8割を超えています。また就職した後、短期間での離職率が非常に高いことが施設退所者の特徴でもあります。仕事を失うとすぐに生活困窮に陥 り、ホームレスになったり、女子の場合は、風俗に流れ、そこから抜けられないことで、自暴自棄になってしまうことがあること、望まない妊娠・出産・子育て ができずに、その子どもがまた児童養護施設に入所するという悪循環も生まれています。
生活保護の受給にいたる人が7.9%で、一般の4倍にあたります。

児童福祉法が18歳までをその対象とすること、18歳を自立とみなすことについて、考えたいと思います。

現在、一般家庭の子どもが、18歳になって、親から完全に自立していくという例はどれほどあるでしょうか。

児童養護施設を出た子どもたちは、帰る家庭がない場合がほとんどです。したがって、施設を出たとたんに、住むところも食べることもすべて自力で、得ていかなくてはなりません。しかも頼るところ、相談する人もいない、という孤独な中にあってです。
子 ども本人の責任ではないのに、始めから生きづらさを抱え、さらに困難なぎりぎりの生活に押しつぶされるようなことがあってはならないと考えます。社会に出 て、やりたいこと、夢があるにちがいないのに、家庭のない子どもは、そのスタートラインに立てないでいるのだとしたら、大きな問題です。

生育過程で大きなハンディーを負った分、自立とみなす時期をもっと遅らせて、自立支援を厚くするなど、18歳を自立の時期とみなした児童養護施設のあり方を法整備から見直さなくてはならない時期にきていると考えます。

民 法では、未成年者には法定代理、親などの同意がないと、契約などの行為ができないとする、など、法律行為における行為能力に制限がかけられています。それ ならば、18歳から少なくとも20歳までは、なんらかの社会的養護が親のない施設の子どもに対してはなければおかしいのではないでしょうか。

児童福祉法では、18歳になったら自立せよ、といい、社会に出ると18歳ではまだ、自立とはみなさない、といっている矛盾があるわけで、施設を出た青年はその狭間で、公的な支援がない中で生きていかなければいけません。

東 京都は昨年度から、施設を出たあとの支援のために「自立支援コーディネーター」の配置を開始しました。申請した施設には、施設を出てからの青年たちの進学 や就職、生活など、あらゆる相談にのる相談員が加配されます。18歳という枠を超えて、支援の体制を創ったことは大いに評価できることであり、今後大いに 期待できる支援の仕組みだと思います。仕事や一人暮らしに順応するまでのストレス、つまずきを支えてくれる仕組みがあれば、再就職の道も開かれていくかも しれません。しかし、だからといって、社会的な環境の改善にはまだまだ至っていません。

施設退所後の一つの難関が住宅です。賃貸住宅の契 約の際の保証人の問題、敷金等の捻出、アパートなどの一般住宅に入れても、住宅費の生活費に占める割合は大きく、低収入の中では家賃は大きくのしかかって きます。学生であれば、なおさら、学費は奨学金がもらえたとしても、生活費を稼ぐためにバイトに追われ、また卒業したら奨学金の返済に追われる苦しい生活 の実態を聞きます。

大田区ならでは支援の仕組みを

【1】 お聞きします。大田区として、児童養護施設を退所した青年たちに、住宅に関する支援ができないでしょうか。区営住宅は入居にあたって条件が「成人」となっ ておりますが、年齢条件を18歳以上とし、施設退所者を優先枠の中に入れることはできないでしょうか。大田区で住まいを探し、自立をめざして奮闘する若者 の自立を支援する体制をまず住宅支援から創ることはできないでしょうか。同じように都営住宅においても入居条件を18歳に引き下げ、大田区で暮らしていき たい施設退所者を支援する施策を東京都に要望することはできないでしょうか。

【2】また区民住宅には3LDK、ファミリー向けの部屋が30戸近くも空いていると聞いています。施設退所をした若い人たちが、共同生活ができるようなシェアハウスに転用することはできないでしょうか。

相談窓口を!都や国とも連携を!

地方分権一括法によって、国や東京都の権限が委譲されてきている今、大田区ならでは仕組みで、未来ある若者が希望を持って、社会に巣立っていくための支援策を考えていただきたいと願います。

18 歳から社会へ出ていかなくてはならない厳しさを少しでも応援しようと聖フランシスコ修道会では、シスターたちがカンパをして、施設のすぐ近くに4年間住む ことのできる寮を独自に建設しました。男子寮、女子寮それぞれ9名定員ですが、住まいの心配はせずに勉強に取り組めるようにとのことで、ここから施設退所 者たちは、短大・大学・専門学校に通っています。日本の木材を使った美しい日本建築の建物です。最善のものを子どもたちに提供したい、とのシスターたちの 心がこもった建物です。しかし、児童福祉法は18歳までが対象なので、この建物は施設の範疇とはならず、アパートとみなされ、固定資産税が今、大きな負担 となっているということでした。公的な支援がない中、“やむにやまれず、何とかしたい”という現場発の独自の支援に対してもまだ公的な配慮はありません。

またどうしても集団生活ではトラブルを起こしてしまいがちな青年に対しては、アパートの1部屋を借りてあげて、施設がアパート代を負担して、学業と生活を応援しているとも聞きました。
まだまだ支援をしていかなければ、自分の足では立っていけない子どもたちであることを十分すぎるほどわかっているからこその支援です。

東 京都が始めた「生活支援コーディネーター」の配置のような年齢を超えた支援策、親身になって青年たちの話を聞き、相談にのる窓口は大変重要であると考え、 ここから支援の幅が広がることを期待するものですが、相談窓口は施設の中だけではなく、外にも必要だと考えます。施設の外にも相談窓口が必要だと考えるの は、家庭で虐待と受けて、家庭にいられなくなっても必ずしも施設に結び付く青少年ばかりとは限らないからです。行き場のなくなった青少年を受け止める場所 が必要だと考えます。幼少期に児童相談所に保護されて施設に行く子ども、里親に預けられる子どもがいる反面、16・7歳になって、家から逃げだした少年少 女がいることは、弁護士たちの有志で作っている「カリヨン」という団体が、その子どもをかくまうためにシェルターを作り続けているという活動があることか らもわかります。区内でもシュルター必要性は青少年やDVに係わっている活動をしている人から聞くところです。

現状、どのようなことが起きていて、どのように手を差し伸べればよいか、情報の収集や対策を考えることを部局を超えて、また東京都や国とも連携を持って、進めていただきたいと思います。

家 庭の崩壊から派生する問題は、単純に年齢や部局で切り分けられるようなことではありません。もちろん、根本の社会構造、貧困などの問題に目を向けなくては なりませんが、今、自死を含め、生命の危険にさらされているかもしれない青少年がいることを私たちは忘れてはいけないと思います。

今回は生活の基盤である住宅の観点からの支援策の提案ですが、青年たちが本来の自分の力を発揮できるように、青年一人一人に寄り添った温かな支援が大田区にも充実していくことを願うものです。

以上で質問を終わります。