今に生きる江戸時代・大田区 ~2018年第1回大田区議会定例会と予算特別委員会が終わりました

2018年第1回大田区議会定例会と予算特別委員会が終わりました。今回は予算特別委員会で3つの質問をいたしましたが、3月16日の教育費において、「歴史的建造物の維持・保存について」という質問をしたので、ご報告いたします。全文です。

 

 


歴史的建造物の維持・保存についてお聞きいたします。

2月4日、鵜の木にある江戸時代に建築された、代々名主を務めた家が解体を前に一般公開されました。写真をご覧ください。立派な門をくぐると、広々とした庭を擁した風格のある建物があり、とても東京とは思えない、まるで別世界の風景でした。
 

 

 

 

 

全景

 

つい20年前、屋根は茅葺だったそうで、中に入ると太い天井の梁の奥に茅葺が覗いています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井、茅葺が見えている、立派な梁

 

いくつもの部屋がありますが、一番奥は、書院座敷になっており、長崎・大村藩の鷹狩の休憩所になっていたといいます。

 

 

 

 

 

書院座敷 長崎・大村藩が鷹狩のときに休憩したところ

 

大名の一行が馬に乗ったまま敷地に入れるように背の高い門になっているそうです。

 

 

 

 

 

 

馬に乗ったまま入れる門

 

大田区はこの建物調査に専門家を投入したので、当日は詳しい説明をいただくことができ、多くの参加者がためいきをつきながら、見とれていました。
関東大震災や戦災からも生き残った堅牢な優れた建築技術、地域固有の歴史的・文化的価値をずっと、地域に語り継いでいってほしいものですが、今回それがかなわなかったことは本当に残念なことです。23区で江戸時代の民家が現存している地域があるということは、奇跡的なことだといえるでしょう。

 

 

 

 

 

 

土間から部屋をながめている

 

これも所有者が、先祖から託された屋敷を一生懸命維持してきたからであって、解体されることは本望ではないと考えます。しかし、一般的には、日常的な維持管理も固定資産税や相続税の問題も大きく、広い土地や大きなお屋敷であればあるほど個人で維持していくことは困難です。

公開日にいらしていたある方は、古民家に暮らしている親戚がこういうのだと教えてくれました。「先祖から引き継いだからがんばっているけれど、本当はいっそのこと、どこかの時点で火事にでもなってしまえばよかった」と。なんとも切ない話です。はたからみたら、貴重な文化遺産だし「ぜひ残してほしい」などと、簡単に思いますが、実際に古民家に暮らすご苦労は想像をはるかにこえているのです。近隣の茅葺屋根のいえの方が、茅葺を20年に一度ふきかえるときには、遠くから職人を呼んできるけれども1千万かかるといわれていました。子どもにまでこの苦労を負わせるわけにはいかない、という話も聞きます。こうして、日本の多くの貴重な歴史的な建造物が失われてきており、今後も失われていくでしょう。これは本当に私たちの望む姿なのでしょうか。

たとえば明治維新の時、封建国家の象徴である各地にあるお城は次々に壊されていったので、江戸時代から現存している天守閣を持つ城はたった12城ですが、その中の松山城は、当時、先見の明のある自治体職員が「これはいずれ価値が認められる」と、社会の風潮やその時の常識に逆らって保存のために尽力したせいで残ったそうです。それが今では世界に誇る文化遺産となっています。

しかし今もなお歴史的遺産を維持保存する制度が十分に確立しているわけではないので、自治体が文化財政策をもち、地域遺産を保護継承する仕組みを創出していくことが必要なのです。

指定文化財という制度もありますが、まだまだ未指定のものもあります。

 

【1】お聞きします。
「大田区の民家」に紹介されていた時点での江戸時代の民家は約何件で、現存するものは何件ですか。

「大田区の文化財第16集大田区の民家」を発行した昭和55年時点での江戸時代に建てられたと考えられている民家は26件でした。そのうち、現存する民家は平成28年度に実施した歴史的建造物調査によりますと、平成29年末現在で5件です。

 

【2】歴史的建造物を残すことの意義をどのように考えていますか。

大田区には多様な地域特性があり、その地域らしい町並み、景観を代表うるものとして、古民家などの歴史的建造物があります。このような建造物をはじめとする文化財は、地域の歴史や生活様式を現在に伝える貴重な資料であり、過去の建築技術を知るうえでの建築学や当時のくたしぶりや生活文化を知る上での民俗学、歴史学などの分野において学術的な価値を有するとともに、区民が地域の歴史に思いをはせ、地域を大切に思う心を醸成するために拠り所ともなります。
また一般公開などを通じて、貴重な観光資源として地域の活性化への貢献も期待されるなど、様々な意義を有していると考えております。

 

一度失われたものはもう取り戻すことはできません。歴史的な建造物は地域の生活や文化の歴史、命がつながってきていることを体験的に子どもたちに伝えていくことのできる貴重な資源だと考えます。所有者に寄り添い、その意思を尊重しつつ、保存への策を探っていただきたいと思います。

さて「特別緑地保全地区制度」は緑を保全することを目的とする制度で、指定され、一定の条件が整えば、管理を自治体が行うこともあり、相続税が最大8割減免、固定資産税・都市計画税が最大5割の減免、また「土地利用に著しい支障をきたす場合は、買い入れの申し出ができる」仕組みにもなっています。もし歴史的建造物を含む緑地が「特別緑地保全地区制度」として指定されれば、所有者の負担を軽減しながら、歴史的建造物を維持保存することでも活用できる制度だと考えます。

 

【3】お聞きします。
「特別緑地保全地区制度」の指定は、何か所あって、区は「特別緑地保全地区制度」のメリットをどのように捉えていますか。

大田区の特別緑地保全地区制度に指定されている場所は、大森ふるさとの浜辺特別緑地保全地区と南馬込2丁目特別緑地保全地区の2か所です。特別緑地保全地区制度は都市の無秩序な開発の拡大の防止に資する緑地、都市の歴史的・文化的価値を有する緑地、動植物の生息地となる緑地の保全を図ることを目的としております。特別緑地保全地区制度は都市計画として指定することで建築行為の制限など新たな規制が設けられますが、その一方で土地所有者は税制上の控除や土地の買い取りの申し出ができるようになります。この制度により土地所有者が今ある緑を未来に残したい、先祖代々受け継いだ緑を持ち続けたい、という気持を実現できることがメリットだと考えております。

 
【4】ではそのメリットを活かすためにこの制度の活用をどのように考えていますか。

区内に残されている歴史的建造物は、広大な敷地の緑豊かな自然の中に残存しているケースが多く見られます。
これまで、建物の老朽化や相続問題など様々な理由により、やむなく開発事業者の手に渡り、建物とともに緑が破壊され、大規模集合住宅が建築されることもありました。
教育委員会では、歴史的建造物を保護保存していくために、所有者の方に登録有形文化財制度について説明を行うなど理解を求めてまいりましたが、特別緑地保全地区制度を合わせて活用することで、区内に残された民有地の屋敷林や崖線の自然樹林など貴重な自然環境を将来に引き継ぎ、緑を守っていくとともに、所有者の負担軽減など歴史的建造物を保存していくうえでの条件整備にも繋がっていくものと考えております。

 

日本の玄関口でもある羽田を擁する大田区です。また勝海舟記念館を作ろうとしているときです。急ぎ、江戸時代からの貴重な歴史的遺産を調査し、保護する方策を練り、地域振興としても取り組むべきだと考えます。この制度は貴重な緑を保存するためにも歴史的建造物を保存するためにも、また景観と区民生活のやすらぎのためにも大きなメリットになる制度だと思います。制度を使いやすく整えて、区民への周知に努めていただきたいと思います。