特別養子縁組で生まれた新しい家庭 ―障がいがあっても命には「絶対的な価値」

生きようとする命に寄り添う

ダウン症とそれに伴う合併症を持つお子さんを育てているご夫婦にお会いしました。お子さんは特別養子縁組により生後5カ月でこのご夫婦のもとにこられ、今はもう2歳、表情豊かでよく笑い、動き回り、ひとなつこいお子さんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特別養子縁組は(とくべつようしえんぐみ)とは

特別養子縁組は(とくべつようしえんぐみ)とは、様々な事情で育てられない子どもが家庭で養育を受けられるようにする、児童福祉の観点から作られた制度(民法)で、養子は戸籍上、養親の実子となります。

 

二人の決断

お二人は妻35歳と夫31歳で結婚されましたが、検査の結果、肉体的に子どもを授かることは難しいと分かったそうです。
その事をきっかけとして、考え始めた『特別養子縁組』ですが、お二人のご両親ともが大反対という中、お二人は1年間、とことん悩み、話し合ったそうです。ずっと二人で生きていくのか、産みの親ではなくても育ての親になるのか。特別養子縁組の場合、男であっても女であっても障がいがあっても受け入れることが前提になっています。それはわが子を授かるときも同じだからということで。しかし不安だったのはもし障害のある子どもが我が家に来たらどう育てればよいのだろうかということ。

二人の出した結論は、命に向き合って生きていきたいということ、障がいがあったとしてもその子の「存在」それは神さまが与えてくれた宝物、子どもの障害を親が負うのではなく、障害があったとしてもその子が自分の人生を喜んで生きることができるようにサポートしていく事が親に与えられた務めだと考えました。

問われるのは親として、大人として成熟していけるのかどうか、だと。

特別養子縁組を申し込んだベアホープは夫婦が親になるためのフォローがきめ細かく、どんな相談にもすぐにのってくれるほか、縁組をした家族同士の交流や子育て講座、など家族をフォローする体制が手厚いことも安心感になったと言います。

 

赤ちゃんを迎える

夫の受けた電話は、「ベアホープ」から、縁組の話でした。生後5カ月になる男の子は、ダウン症であり、2度の心臓の手術をしたとのこと。それを聞いた夫が思ったことは、「たった5カ月で2度の心臓の手術を受けたということは、乗り越えるだけの体力があったということ、生かされているということ、それなら伴走をしたい、後方支援をしたい」ということでした。自分たちの思いではなく、神さまが「育てなさい」と言われたように受け止めたそうです。

 

無条件に慕ってくれる愛らしさと親としての成長

特別なニーズを持った子の親となり、子どもに教わったことの一つに、病院で目にする様々な家族の在り方を通して、親と子のコミュニケーションは私たちの思っていた以上に広さと深さがあるということ。またそれと共に「歩く」「言葉で表現する」という力は、当たり前に備わる能力ではなく、親である自分自身も含め、一つひとつ感謝して受け取るべきものであるという事でした。

無条件に慕ってくれる愛らしさに触れることはなにより大きな喜びであり、幸せを感じ、同時に親として成熟し整えられたいと願うそうです。ダウン症の子どもを持つ親や特別養子縁組を選んだ人たちとの出会いもあり、かれらの『葛藤をくぐってきたからこその強さ優しさ(「肝がすわっている」というのがぴったりだそう)』には学ぶことが多いそうです。

 

夫婦で勝ち取ったこと

特別養子縁組で親になるということは、自覚的に親になるということ。何よりよかったのは、夫婦でとことん話し合い、意志を確かめ合えたこと。赤ちゃんを迎えたことは、まるで2人で分娩台にのって授かった感じさえするそうです。


子どもの成長にとって、その最も大事な環境は家庭であり、愛情を持って育ててくれる人との関係です。

ご夫婦の言葉で印象的だったのは、「『特別養子縁組』という入口を通して私たちは親になりましたが、誇ることなんて何一つ無いんです。入口は『特別』と冠されていますが、夫婦ともに失敗もしますし、悩みや不安も持っているみなさんと同じ人間であり、普通の『親』なんです」。「命には絶対的な価値があります」という言葉も心に残りました。子どもは親の所有物ではなく、神さまからの授かりもの、この確信、「命への畏敬の念」が子どもの魂にまで届くメッセージになるにちがいありません。子どもが養親の愛情を通して「私は無条件に愛されている」と感じて、安心して生きていけることほど幸せなことはないのではないでしょうか。

特別養子縁組制度は、「命の尊厳」に向き合う、すばらしい制度であると改めて思いました。さらにお話を聞いていて思ったのは、夫婦の絆を強めて「自覚的に親になること」はだれにとっても必要なことにちがいないけれど、意外にそういう機会は少ないのかもしれないということです。

今、日本では中絶や出産後すぐの虐待死が後を絶ちません。予期せぬ、望まない妊娠で苦しむ女性がいなくなることを、子どもの命が救われることを祈らずにはおられません。真剣に生きるお二人との出会いに心から感謝いたします。