区政の課題と区民協働の可能性
山積する社会課題は、行政だけでは解決が難しく、行政と区民との相互補完が必要です。地域のニーズをよく知っている区民団体の活動が地域を支えているという実態もあります。特に大田区は、区民活動が活発で、それを様々な形で支援してきた行政の取り組みは評価されるものであると思います。
大田区は、区民、区民活動団体、事業者、区が協力して公益の増進をはかるため、平成17年に区民協働推進条例を制定して区の役割を明確にしました。条例の中にも明記されているとおり、ここでの区の役割は、効果的かつ効率的に施策を展開するところにあります。
また、その進め方として、区民活動団体、事業者及び区が目的を共有し、福祉の増進や環境の保全、子どもの健全育成その他の公共的な課題の対応にあたって、その解決に最もふさわしい主体が協働事業を担うこと、とされ、それぞれの主体が組織及び財政で自立し対等な立場で共働事業を展開するとともに、その過程について相互に透明性を確保しかつ外部に公開すること、とされています。
こうした条例と「おおた未来プラン10年」に基づきスタートしたのが、地域力応援基金そして「スタートアップ助成」「ステップアップ助成」「ジャンプアップ助成」です。
ステップアップ助成は、大田区の地域課題に取り組んでいる団体がさらにステップアップ(発展)させようとする事業に対する助成で、大田区の提示した11の分野、たとえば「高齢者や障碍者への支援」「子どもの健全育成を図る活動」などに対する事業への50万円~300万円の助成です。ジャンプアップ助成は、区が区政の課題を解決するために提示したテーマに応募した団体のうちから選ばれ、助成額は400万円以下です。
区政に生かしてほしいという区民の願いから生まれた基金を使っての事業がスタートして、5年目になりますが、この助成事業が区民協働推進条例の主旨に基づき、区政の課題解決に、生かされているかどうか、今日は、検証してみたいと思います。過去に、支援した事業は、合わせて89事業。支援した金額は、累積で8,135万円にのぼります。
区の事業として事業化されたのは現時点では1事業しかありません。なぜ、多くの団体の活動がありながら事業化されるものが少ないのでしょう。中には、区政に反映させるべき、重要なものがあったのではないでしょうか。区民の発想が区政運営のヒントになることもあったのではないでしょうか。区民協働担当は、区民協働推進会議と共に助成を受けた区民活動を調査・報告、区長に提言する仕組みを持っています。事業化に値するかどうか、評価し、各部局との連携もとりながら、もっと主体性を持って、場合によっては予算要望の提言をすることがあってもよいのではないでしょうか。
そこでうかがいます。
今年度実施の「ジャンプアップ助成」は「生活保護受給家庭を含む経済的困窮家庭の子どもへの基礎学力の定着支援」です。二つの区民活動団体が選ばれ、現在中学3年生を中心に高校受験に向けての学習支援が行われています。これは「貧困の連鎖を断ち切る」という区政の課題を解決するために福祉部から提案されたテーマにそったものです。
厚労省の発表では、215万人を越える生活保護受給者、しかも働ける年代の受給者や2世代、3世代にわたる受給者の増大は、制度の維持にも関わり、「貧困の連鎖を断ち切ること」は国家的な喫緊の課題とされ、「学習支援」は「親への養育相談」「高校進学後のサポートなどの強化」と共に国が推し進めていることでもあります。
大田区では、18歳までの子どもを養育している「生活保護世帯」が平成24年度で976世帯、小・中・高校生は合わせて1,000人をゆうに越える数です。その中で中学3年生の高校進学率を生活保護家庭と一般家庭とで比較したとき、25年3月調査で一般家庭が99%のところ、生活保護家庭が93%でした。一方、せっかく入った高校ですが、その中退率をみると一般家庭で1.7%、生活保護家庭では7.76%です。高校中退は、若年無業者などの社会的弱者に至るリスクが高いことから、早い段階から支援を行っていくことが必要であると内閣府の報告にありますが、この区民活動団体の活動が、その子どもの将来と社会全体の活力に影響することを思うと活動の意義深さを感じずにはいられません。
そこでうかがいます。
次に平成23年度にステップアップ助成を受けた「就業困難な若者への就労支援事業」を見てみたいと思います。
選ばれたNPOは、20年近く不登校の子どもたちのフリースペースを運営、また若者の自立と就労支援のためのプログラム、不登校・学習困難児童への学習支援事業を行ってきており、就労相談と就労支援が助成対象となりました。コミュニケーションに困難を抱えるなどの若者たちが、地域の企業やハローワーク、また他の区民活動団体との連携の中で、モノづくりの現場に学んだほか、面接の受け方や応募書類の書き方など、具体的なスキルを身に着けていったそうです。結果、30名の登録中、7名が就業。事業終了後、独自に行う就業相談には7名が継続とのこと、区内公私立高校との情報交換、卒業生への支援についての継続的な連携の基礎もできたとの報告があります。
しかし、助成期間が終わった現在は、資金は会員の収める会費しかなく、事業は縮小せざるを得ない状況だと聞きました。たとえば「ひきこもり」からやっと社会へ一歩出た青年への支援は繊細な配慮を要し、しかも相談者は就職を目指す無収入の若者なので、有料にはできないとのこと、つまり、この団体は、助成期間終了後、財政的に厳しい状況にあります。
助成期間終了後、もしこの団体が活動を停止したとしたら、どこで、このような「若者就労支援」が行われていくのでしょう。区としての若者支援はどのような状況なのでしょうか。
「おおた未来プラン10年」をふまえて作られた計画「おおたのびのび子育てプラン」では「中高生の居場所づくりや若者の社会活動を積極的に支援し、社会参加・自立を応援する」という施策の推進が平成24年度から始まるとされています。
施策に向けて作られた「大田区青少年の居場所と自立支援のあり方検討委員会」、この委員会の委員は、保護司や警察少年課、児相の職員などみな現場を知る人です。
この報告書によると、現状、大田区では15歳から39歳までに約4000人のひきこもりが推計されること、実際、ひきこもりに関する相談件数の増加、また学校ではキレやすい、いじめ、不登校、暴力行為、深夜の俳諧、その背景には、急激な少子化の進展やインターネット・携帯電話の普及、核家族化により人間関係が希薄化し、青少年が、安心感を得たり、他者との関係づくりを行う、居場所を失ってきていることが指摘されています。
青少年の社会的孤立は、その子どもの自己責任だけではなく、社会構造の変化に負うところが大きいため、「行政の積極的な若者の自立支援」が必要であり、具体的な提言として、居場所的な支援と就労支援を担う「地域若者サポートステーション」の設置などを提言しています。これらの提言は、平成22年に施行された「子ども・若者育成支援推進法」を受けたものでもあります。
平成23年のステップアップ事業の若者支援の活動は、まさにこの報告書の提言の具現化のように思われましたが、区の事業としてはひきつがれてはいません。
そこで伺います。
今回の、この2つの助成事業は一例ではありますが、公共的公益的という点で、大田区の基本的な福祉として継続してきちんと取り組むべきものだと考えます。部局がどのように区民活動団体と協力体制を組んでいけるのか、まだまだ課題が大きいことを感じますが、たとえば福祉部の「学習支援」でいえば、生徒の募集や子どもをめぐる相談ではケースワーカーとの連携協力があることで、この事業はさらに実りあるものとなるでしょう。
「区民協働」とは何か。お金をかけたくないから区民と協働するのではないはずです。区民と連携した方が質が高まり、大田区がよりよくなるからです。
区民協働推進条例にあるように「区民活動団体、事業者及び区が目的を共有し、かつ互いに特性を理解し、及び尊重したうえで、それぞれの役割を果たしていくこと。対等な立場で協働事業を展開していくこと」を目指し、大田区の地域力が十分生かされるように、そのコーディネート役の区民協働担当の可能性に期待するものです。