決算にあたって~大田区政・区民の実態に基づいた政策、区民参画の仕組みは十分か

平成24年度の大田区の事業を評価する決算特別委員会。一番最後は、一般会計歳入歳出決算と各特別会計の歳入歳出決算の認定に賛成するか、反対するか、それぞれの政党が立場を表明します。
この一年あまり、何を大切だと思って、区に何を要望し、何を指摘してきたか、そして、何が解決されて、何が解決されていないか、ふりかえりながら、討論いたしました。

ここ数年、取り組んできているものは

  ・学童保育のあり方 ・中高生の居場所 ・待機児対策 ・わかばの家の問題 ・景観条例と街づくり ・施設整備のあり方
などなど。
これらの事例に共通するのは、「区民の意見が反映されているかどうか」という視点です。 区民の実態からしか、本当の解決には至らない、ということを強く感じるのです。そのような観点から、平成24年度一般会計歳入歳出決算の認定には反対をいたしました。
以下、討論の全文をご紹介させていただきます。


大田・生活者ネットワークは、第76号議案 平成24年度大田区一般会計歳入歳出決算の認定に対し反対、第77~79号議案までの決算の認定に対し賛成の立場から討論いたします。
国は、社会保障の拡充を理由に消費税増税を決めました。非正規雇用の増加と失業、貧困と格差、生活保護受給世帯の増加という現在の状況にこの消費税増税がどのような意味をもつのか、効果をもたらすのか、むしろ国民に大きな負担がのしかかってくることになるのではないかと危惧するところです。
税の負担増にも関わらず、生活の豊かを実感することができないとすれば、そこには政治の責任が大きいと思います。住民に最も近い自治体が、その実態を把握し、住民の生活を守るために、何をすべきか、真剣に考え、取り組み、時には、国や都に提言をしていかなければ、住民の生活は守れない、そのような時代を迎えたのではないか、自治体の真価が問われているときであると思います。

24年度決算をみると、一般会計の歳入は2,326億9,876万円 当初予算に対して62億5,097万円の増。 歳出は、2,223億6,919万円 予算に対して40億7,860万円の減。歳入歳出差引額は103億2,957万円となり、翌年度へ繰り越すべき財源を差し引いた実質収支額は89億2,732万円の黒字。
しかし、歳入全体では、自主財源の割合が40.44%、依存財源が59.56%であり、24年度は、自主財源の比率が過去5年間で一番低くなっているとのこと、国や都からの交付金・支出金頼みの財政運営が常態化されていくならば大田区独自の意思、自主性が保てなくなることが懸念されます。
同時に、区債の発行や基金の取り崩しは、将来世代への負担から、極力慎むべきだと考えます。
昨年の監査意見書には、「区債」に関して「適切な償還計画を立て、将来の負担が過大にならないよう調整しながら、その特性を活かした活用も検討すべき」と抑制がきいていましたが、今年の意見書では「区債の有効利用による公共施設の整備などを検討されたい」と将来の借金に対しての警戒心が希薄に思われました。
将来負担といえば、PFI方式で建設が進められている伊豆高原学園など、施設の引き渡しの時点で施設整備費の債務が確定する仕組みですので、現時点での隠れた債務といえます。また建て替え時期を同時期に迎える施設整備費をとってみても、本庁舎の改修費はこの5年間で50億円にもなりますが、今後の維持費を現実的に考えたとき、どのように財源を確保するかは大きな課題で決して楽観視はできません。
さて、この監査意見書は、財政の側面から考察をしていますが、政策の中身にも評価を加えています。
「総括意見」のなかに「区民生活に安全・安心をもたらす施策や『おおた未来プラン10年』の点検と着実な推進を図り、未来への区政の展望を区民に示すことを重視して、効果的・効率的な区政運営の実現をめざした」とあります。ではその結果がどうだったのか、ということにも触れないのであれば、総括意見として現実を反映したものとはいえないのではないでしょうか。
特養の待機者1,500人、保育園待機児438名、またわかばの家に発達障害のことで相談を申し込んでも3か月以上も待たなければならない状況など、高齢者福祉も児童福祉も障害者福祉も需要を満たしていません。
評価をするのであれな「課題はあるのだ」という真摯な意識をもって、区民に向き合うのでなければ、「おおた未来プラン」の目指す、本当の地域力・連携・協働は生まれないのではないでしょうか。

わかばの家の問題
知的障害児通園施設わかばの家は、平成24年4月から療育部門を社会福祉法人「嬉泉」に委託されました。
唯一大田区においての、発達障害の子どもの療育機関としての受け皿ですが、近年の発達障害の子どもの増加に対して、わかばの家とその分館ではとても量的・質的にサービスが足りていません
相談件数が23年度は436件だったものが24年度は543件と25パーセントも増えています。初回面接にいたるまで、3か月以上先まで待たされ、24年度から始めた小学生親子対象のアフターケア事業も3か月に一回しか順番が回ってこない状況だということです。一月の外来訓練登録者は本来200人が適正というところを現在500人近くにも達しています。しかも月に一度の療育訓練ではとても、十分な療育といえません。
悩んでいる親にとって、成長期の子どもにとって、わかばの家の療育体制の拡充は早急に取り組むべき課題です。児童虐待もその相談も件数が増えていますが、発達障害の子どもを育てにくいと感じる親の苦しみを減らすことから、親子共々救われることもあると思われます。
他にも、小学校での通級学級が足りない、学習支援員には専門的な訓練が必要、発達障害児対象の学童保育が足りない、未就学児から学童期における連携と訓練の連続性が必要、さらにわかばの家に入れず、適切な療育にたどり着いていない子どもたちへの対策等々、発達障害に関わる多くの課題が山積していることは、以前から、指摘されているところですが、抜本的な対策に踏み込んでいません。
大田区の税の投入の優先順位が、人より箱ものにはなっていないでしょうか。 大田区は、23区の目的別歳出比較によると、土木費の構成比が、中央・千代田・中野に続いて4番目に高く、13.0(平均は9.7)。ちなみに教育費は下から数えて4番目で、9.7(平均は13.0)です。
大田区は、住宅リフォーム助成では、その工事の中身の如何によらず3千万円の予算をつけましたが、これは、持ち家のある人に対する助成金であり、賃貸の人や低所得の人にはあまり意味がなく、公平性という点で、税の使い道として、適正であったかどうか疑問です。

地域の実態の反映、市民参画の視点からの施策展開であったかどうか、まちづくりを例にとります。
この24年度、景観計画策定のための委員会の組織、建築物の高さ制限を検討するための調査がなされました。
「景観行政団体」としての機能が東京都から、大田区へ移行したことに伴って制定された、景観条例。目的は「地域力を活かした世界に誇ることができる多彩で魅力的な景観のあるまちを実現する」とありますが、たとえば、景観重点地区に定められている、呑川沿いの池上「由緒ある社寺と一体になった歴史的な街並みを活かします」と計画にはあっても、違法でない限りは、目いっぱい大きく高い建物が建てられるのです。
景観条例を作って、大田区は何をめざし、何を守るのか、住民参加での街作りとはどのようなものなのか、自由な経済活動に任せるだけなのか、条例や計画の方向性、実効性・有効性がみえません。近隣住民が訴えても「違法でない限り、業者には何も注意できませんから」という担当課。これまでといっこうに変わっていません。

少子化と高齢化、人口の減少、そして首都直下型地震も予想される中、地域の中で、安心して暮らすための住環境は大事なテーマです。防災の観点ももちろんですが、コンパクトシティ、陽の光や風の通り道で、自然を感じられる低層階の建物が少なくとも住宅地においてはこれから主流になるべきではないか、そして普通にそこに暮らしている人の権利、生活権を尊重する時代ではないかと考えます。
委員会を設け、調査をし、報告書をつくるのに莫大な金額をかけても、課題解決に結びつかず、景観も建物の高さも区民の視点で考えられていかないのであれば、税金の使い道としては不適切です。街づくりの主体はそこにすむ人である、という認識が大田区にも市民にも共有されてこそ、地域力が生かされる街になるのではないでしょうか。
世界に類をみないとされる急激な高齢化、独居老人がふえれば、孤立死の問題ももう身近かなことがらになります。高齢化に関わる問題や待機児問題、そして発達障害の子どもたちの増加に対応する対策、これらが先送りされればされるほど、あとで問題はさらに大きく、多方面へも波及する可能性があると思われます。
長い目で考える予防的な施策、「教育」や「福祉」に財源を注ぐことで、地道に社会の安定化をはかること、それが自治体の役目であり、その土台固めがないことには、産業施策も観光施策も地に足のついたものにはならないのではないか、と思います。
区民の実態を踏まえた施策、市民参画、本当の協働へは、課題が多く、今後の期待とすることを申し述べ、24年度決算の認定に対して、反対の討論とさせていただきます。