「かわさき子どもの権利条例ができるまで」制定秘話 かわさき子どもの権利フォーラム記念講演より
目の前の子どもの“生きる”をどう支えるか。
市民と向き合っている基礎自治体だからこそできる。それが強み。
だから市民と一緒になって作っていこう。生活しているレベルで。
「かわさき子どもの権利条例ができるまで」
制定秘話
小宮山健治さん
(元川崎市民局長・元川崎市生涯学習財団理事長)
かわさき子どもの権利フォーラム第1回総会・記念講演会より
2018・7・6 川崎市生涯学習プラザ301会議室
会場入り口
●子ども条例が制定される基盤
人権先進都市・川崎市
・住民投票条例(外国人にも投票権)
・「子どもの権利条約ってなに?」というパンフレット作成、全児童に配布。
(子どもに関わることなのに子どもに知らせなくてよいのか?ということで全国初)
→ 毎年作った。子ども自身の名前が入れられるように。
・子ども夢共和国事業(地域やまちづくりに子どもが参加、ワークショップ)
・市民・学校・行政が一体になって子どものことを考える「地域教育会議」の積み重ね
「いきいきとした川崎の教育をめざして」「学校の社会化」「地域の教育化」「行政の市民化」。
・深刻化する虐待問題
そこに「子どもの権利条例」を作ることを公約に掲げた市長が誕生。市民参加で市長部局と教育委員会が中心になって条例策定準備。2年間に200回を超える様々な会議や集会。小宮山さんが「子どもの権利」担当。
・市民や関係者の意見を集約し、骨子案として市に答申。その内容を基に条例案作成。
・市民団体代表と学識経験者からなる「子ども権利条例検討連絡会議」はいつでもオープンに。市民参加の条例提案だからこそ、議会も採択。市民の力が条例制定の力に。
権利条例に関するパンフレット
●2000年12月市議会で子どもの権利条例は全会一致で可決成立
●子どもの人権の条例がなぜ必要か、小宮山さんの思い
市役所に入る前、小学校の重複障害児学級、中学校、夜間中学の教師時代に出会った子どもたちのこと。
・無戸籍の子ども
学校に行きたいが行けない。出生届けが出されていない、国籍がない。
小宮山さん奔走。病院で確かに生まれたという証拠、児童相談所が親代わり。
何を根拠に学校に入れるのか(教育委員会)。「子どもの権利条例」により「保障」。
権利保障→日の当たらないところにいる子どもも日の当たる場所に。組織横断的に動く。縦割りの壁を越えて連携して、子どもを守る。行政には根拠法が必要。
・自分が自分の主役になって一歩踏み出すことを応援したい
どの子どもも「自分で生きていくんだ」と一歩ふみだしてほしい。その子どもがその子として生きていくことに意味がある。
重度の身体障碍と知的障害、長くは生きられない。教師の自分に何ができるのか、常に考えていた。悩むことも教師の仕事。
・困難を抱えている中学生、たばこを吸う、親に通報。親に謝る小宮山さん、「学校で充実感を得られないからタバコを吸ってしまったにちがいない。教師として至らなかった。申し訳ない」と。その様子を見ている中学生。次第に心を開いてくる。様々な家庭の子どもがある。ご飯を作ってもらえない子どももいる。生きていくための保障をだれがするのか。信頼できる大人に出会っていない子どもたちがいる。せめて教員だけでもきちんと向き合いたい。学習ができる環境をつくる。教師は子どもの学習権を保障するために働いている。
・アパルトヘイトについて書いた在日韓国人の生徒の作文
「私は在日韓国人です。・・・」自分の思いを書いていた。在日の子どもが自分の一歩を歩み出す、その瞬間をみることができる。教員としてこんなにうれしいことはない。子どもが主体者になっていく。
●条例があるからこそ
・オンブズパーソン
うずくまって動けない子どもにどう働きかければよいのか。
民と行政、民と民の関係調整も行えるオンブズパーソンの必要性。学校や親等との調整も行う。子ども中心に子ども自身が解決していけるように支える。
●小宮山さんは今も奔走
・他自治体へも川崎市の事例を説明に行く
校長会にて。条文には「子どもの施設に関して子どもの意見を取り入れる」とある。
ある校長「子どもの意見を聞いていたら、ますます忙しくなる。時間保証は教育委員会がしてくれるのか?」
小宮山さん「学校は子どものためにあるのではないか。教員のためではないはず」
権利条例は学校を縛るものではなく、子どもたちの成長を支え豊かな関係性を築くために生かし活用していくもの。
・大人の心配。子どもがわがままになるのではないか
→わがままにはならない。安心して生きる権利、学ぶ権利など、だれであっても相手から奪うことができないし、条例を理解し活かしていけば、子ども自身が自分を律することになる。条例を学習するほど、いじめなどできなくなる。
条例制定にずっと関わって下支えしてきた小宮山さんはご自分の学校教師だった時の子どもとの出会いを土台に、子どもにとっての幸せをとことん追求されてきました。学校現場から本庁に移られた時、「学校という狭い世界からみると本庁はいろいろな部署と連携して仕事ができる広がりのある世界」と思われたそうです。そういう中で、教育現場にいたときに抱いた課題を、子どもの権利を保障する仕組みを構築していく作業に生かしたのです。制定への過程には大変なご苦労があったでしょうが、信念と情熱が本当の連携を生んでいったことを思わせられた講演でした。まさにスーパー公務員。
公務員だからこそ、できることがたくさんあるのですね。
大田区での条例づくりを考えるとき、やはり様々な現場の実態から、子どもの権利を保障するための共通ベースとなるもの、基盤になる理念をしっかり持つことから始めていくことが大切だと「人権先進都市かわさき」と小宮山さんから教えられました。