この国のセーフティネットを問う 第10回生活保護問題議員研修会(鹿児島)のご報告
“敬天愛人”のまち鹿児島から生活保護を考える
2018年8月24日~25日、鹿児島県市町村自治会館にて行われた第10回生活保護問題議員研修会に出席してまいりました。
研修会場の入口で
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(憲法25条)
最後の安全網である生活保護、また関連する福祉課題について学び考える貴重な研修会でした。今年は住宅支援が一つの大きな柱でしたが、自治体における実行性のある住宅施策はこれからの大きな課題です。生活保護の現状と住宅施策について、簡単に報告いたします。
★生活保護基準の引き下げとあるべき生活保護制度 (花園大学 吉永 純)
【1】現状
1900万人が貧困。子どもの7人に一人が貧困。貧困線が下がり、貧困率は上昇⇒全体として地盤沈下。補足率は2割、生保はわずかな人しか利用していないということ。生保以下の暮らしの人は700万世帯。先進国の中で、日本の貧困率は高いが、保護率も補足率も低い。原因は厳しい資産条件(貯金や自動車の保有を認めない、扶養義務)にもある。
【2】生活扶助の引き下げ
2013年から相次ぐ引き下げ 平均6.5% 最大10% 受給家庭の67%で減少
2015年からの住宅扶助の減額 最大0.8%
2人世帯(母子・高齢夫婦)にとって過酷
2018年基準引き下げの内容・生活扶助基準の減額、母子加算の引き下げ・・180億円
【3】子どもの貧困対策に逆行
児童養育加算(3歳未満)月1.5万円→1万円
母子加算 月2.1万円→1.7万円
学習支援費廃止、クラブ活動のみの実費 18.9万人の子どもに影響
大学等に進学すると世帯分離 5万円減額
大学進学 一般世帯73.2% 生活保護世帯33.1%
【4】問題はどこに
・利用者の意見を聞いていない
・一般勤労世帯の少なくとも60%水準を歯止めとしていたのにそれを切った。56%
・2013年の引き下げは「物価下落」が理由。今回は物価が上がっているのもかかわらず、「消費とのバランス」という名目で引き下げた。(引き下げの理由に合理性がない)
・格差の連鎖→子どもの生活底上げ
(大学に進学しても世帯分離せずに保護は継続すべき)
・居住保護の原則の形骸化→ハウジングファーストを実現していく
★「身寄り」の問題に取り組む(「NPO法人つながる鹿児島」 芝田 淳)
自分で自分のことができなくなるとき、だれが援助するのか。
⇒家族がするのが当たり前とは限らない
家族がない場合の連帯保証人、身元引受人は?
施設に入居するとき、入院するとき、介護を受けるとき
⇒命と暮らしに関わる根源的な部分にこそ、連帯保証人が必要
「身寄り」問題とは
身寄りのない当事者と事業者で作る「鹿児島ゆくさの会」(“ようこそ”という鹿児島の方言)
社会的孤立をした人が相互に支えあうための互助会的団体を立ち上げる
●雑煮会や花火大会などイベントの開催
●つながるファイル 医療同意に関する考え方を共有。葬儀や埋葬など、NPOや仲間に依頼することを目的にオリジナルの「つながるファイル」をみんなで作る。
●「みまーも鹿児島」との連携
地域見守りキーホルダーによって、緊急連絡先への連絡。
ゆくさの会の仲間とNPO法人つながる鹿児島が緊急連絡先になる。
死後のことへの見通し、連絡先リスト⇒安心
●Lineを用いた交流と相互の見守り 5人組。4人が一人を見守ることになる。
高齢者も簡単に操作しやすい方法で互いにつながり、支えあう。毎日必ず一言。
(格安携帯会社・月2500円、10分以内話し放題、初期費用は機械代込みで約1万円)
Lineを使った交流
★福岡市社会福祉協議会 「住まいサポートふくおか」の取り組み
貸す側の不安 孤独死・遺品の処理・火災・家賃の滞納
⇒身寄りがいない、保証人がいない高齢者には貸しにくい
⇒仲介する仕組み・社会福祉協議会と14のNPOや団体が連携
安否確認や入退院支援サービス、日常生活自立支援事業、死後事務、空き家の活用・・・
福岡市社会福祉協議会「住まいサポートふくおか」の事業の一つ・死後事務
死後事務内容
このように今回の研修では「居住支援」についての各地の優れた事例をお聞きすることができました。どれもアウトリーチ型で、地域のニーズに寄り添う形で展開していますが、超高齢者社会と格差の広がっている中で、民間まかせでは限界があります。行政がきちんと取り組まなければなりません。
稲葉剛さんのお話に「ハウジングファースト」というアメリカ・フィラディルフィアでの実践の話がありました。薬物依存のホームレスの人たちに治療を施しながら生活訓練のためのグループホームに入れてその後アパートへ、というプロセスをとっているとゴールまでたどり着けない人が多く、結局は社会的コストがかかるというのです。最初から無条件にアパートを提供し家庭訪問をしたほうが地域に定着し、成果があがるとのことで、ヨーロッパにも広がっているそうです。“住まいはだれにとっても基本的に必要なものだから提供する、支援はそれから” というシンプルな考え方。
稲葉剛さんと野呂恵子さんと
日本では、大田区ではどうあるべきか、何ができるのか、勉強を続けたいと思います。