七五三、成人式、着物を美しくまとう。イチゴイニシアチブの教えてくれたこと
虐待をなくしたい、虐待の連鎖をなくしたい、
虐待で傷ついた子どもを励ましたい
「あなたはきれい」祝福の中で“自分を好き”になってほしい
着物の着付けには時間がかかる。今の合理性、効率性を求める時代にマッチしないのかもしれない。私たちの価値は、いかに早く効率的に仕事をこなすか、無駄な時間を使わないようにすること。まるで「時間」はただのビニール袋で、入れ放題の枝豆を“どれだけ入れ込むか”にばかり気をとられるかのように。しかしイチゴイニシアチブの活動の話を聞くと着付けの時間がその子どもとの大事な「愛着」の時間であり、関わるスタッフを含めて「幸せ」を感じる生き生きとした時間であることがわかる。速さには「価値」を見出していない。
児童養護施設の子どもたちへの慶事支援
友人は児童養護施設の子どもに七五三や成人式のお祝いに着物を着せてあげる活動をしている。彼女がその活動を始めた動機は「虐待をなくしたい、虐待の連鎖をなくしたい」「虐待で傷ついた心を励ましたい」「自己肯定感を持ってほしい」「自分を好きになってもらいたい」という強い願いから。
プロ集団、心が動くと最大のパフォーマンス
どんな子どももかけがいのない命を持っているのだから、お誕生日をお祝いしようという活動から始めて、現在は「着物」という日本の伝統文化を活かしての「慶事」支援に移り、もう10年近くになる。チームはこの活動に賛同した各分野で活躍するプロフェッショナル。メイクアーチストであり、着付け師であり、カメラマン。思いを同じくするというだけで、無償で、なんのお膳立てもない中で各児童養護施設の子どもたちとの出会いの中で、ただただ自分の最高の技術をもって子どもを祝福するのだ。心が動くと最大のパフォーマンスが生まれるのだという。活動は朝早くから始まることも多い。
この間、都内を中心に多くの児童養護施設の子どもたちのあでやかな七五三や成人式の着物姿を美しいフォトグラフに収めてきている。子どもたちにはそのフォトフレームがプレゼントされ、それを見たら、どの子どもも言葉には出さずとも「私ってきれい」と思うにちがいない。そればかりか、親子関係が上手くいっていなかったはずの親が子どもの晴れ姿を見て、涙する場面もあるという。
18歳で施設を出なければならない若者が、社会の荒波の中で家庭という港がない中で、一人で生活していくのは大変なこと。そんな時、施設の職員が「成人式には戻っておいで。振袖を着よう。みんなでお祝いしよう」と声をかける。イチゴイニシアチブと共に着物を選び、着付けとメイクをしてもらい、写真を撮り、フォトフレームが贈られる。施設の職員全員でその新成人をお祝いするのだ。
着物の着付けの時間・美しさを味わう時間
着物の着付けにかかる時間は「愛着」の時間で、その時間のあるおかげでこれまで出会った200名の子どもたちのことを一人として忘れていないという。美しい着物と帯がまとわれていく様は、日本の文化への誇りを呼び起こされ、きれいでキラキラした若者に出会えることもメンバーにとっても幸せな、大事な時間だという。着物の美しさに加えて、子どもを囲む“まごころ”の美しさを感じる時間なのだという。
「時間」とはなんだろう
美しい着物と帯は多くの職人の手の技の中から多くの時間をかけて生み出されたもの。日本の伝統が息づく「織り」だったり、「染め」だったり、刺しゅうだったり、そして帯揚げ、帯締め、草履など小物を含め、それぞれ人の技と思いが結集しているのが日本の着物であり、身にまとう時間は「早い」ことに意味があるのではなく、日本の美しい優れた文化を味わい、包み込まれるように心が満たされること、長い時の結集が子どもの命に寄り添うこと、そのものに意味があるのではないだろうか。手早く効率よくの「枝豆入れ放題」とはわけがちがう。イチゴイニシアチブの活動が連綿と続き、いつも最高のプロ集団が集結しているのは、現代の「時間」に対する価値とちがう価値をその活動から見出しているからにちがいない。
豊かな時間とは
出会うものにしっかり向き合うことを私たちはおろそかにしていないだろうか。「子どもと向き合う時間」をしっかり持っているだろうか。自分をしっかり見つめてもらえたら、子どもは自分を好きになるにちがいない。しっかり見つめる、生活を大切にすることがそのまま私たちの心や生きることを豊かにすることなのではないだろうか。
時間泥棒に乗っ取られたかのような日本。虐待が増え、イライラした人が増え、うつ病の人も増えている。イチゴイニシアチブが子どもたちを支援しながら、実は自分たちが豊かにされている、という真実から大事なことを教えられる。節約したつもりのあわただしくうすっぺらな時間はいくら積み重ねても心を豊かにはしてくれない。出会うものをしっかり見つめ、心の通わせる生活を心がけたい。