地域の子を地域で NPO法人 矢口子育て支援「ぷーさんの家」 ~大田・子どもの居場所シリーズ3
親を助けたい、子どもを守りたい、 必要に応じての支援
下丸子の多摩川沿い。陽がサンサンと入る明るい家。小野さんは、その陽ざしの温かさにも似た、みんなのお母さんのような存在です。 家をすっかり開放して、ご主人も娘さんもいっしょに地域の子育て家庭の応援をしています。
NPO法人 矢口子育て支援ぷーさんの家
一時預かり、ベビーシッターとうたっていますが、小野さんを中心に数名の仲間で、行政の現在の仕組みの中では網羅できない部分の子育て支援もしています。
急な預かり、夜遅くの預かりや、泊まること、また、友だちと一緒に、預かってもらうこと、などにも対応します。
時には、3か月に満たない赤ちゃんを預かることもあります。障害のある中学生も。障害を持った子どもの保育園や児童館からの送り迎え、泊りがけの仕事のあるスチュワーデスや看護師さんの子どもを泊めて預かったり、保育園に迎えに行った後、深夜まで預かることもあるそうです。その人の必要に応じて、ぷーさんの家は、親身になって相談に乗ってくれるのです。
家族の一員のように
目の前の多摩川の土手でボール遊びをしたり、土手滑りをしたり、夕食まで一緒に過ごすときは、いっしょにおにぎりやハンバーグやギョーザを作ったりもします。大きなテーブルで家族のように一緒に食べるのだそうです。
以前、双子の子どもに対する虐待事件にショックを受けた小野さん、保健所に双子の子どものお世話もしますよ、と申し入れたところ、紹介されて何組もの子どもたちがやってきたとのこと、どんなにかわいくても、親だってちょっと一休みしたいことってありますものね。放っておけない小野さんです。
子どもの成長を応援する
こんなこともあったそうです。 その子どもは小学校入学時に、ほとんど歩けず、自分の要求を人に伝えることもできなかったそうです。忙しいお母さんのもとで、ベビーカーで過ごすことが多く、子どもが要求する前にお母さんが、なんでもやってあげてしまっていたとのこと、通った保育園も自立を促すよりは、現状を見守る保育だったそうです。結果、入学前だというのに、歩行の訓練ができておらず、自分の要求を人に伝えることもできなかったそうです。
「これはまずい」と感じた小野さんは、小学校の送り迎えのとき、歩く練習や要求を伝える訓練に取り組み、もうすっかり大きくなったそのお子さんは、知的な障害はあるものの、ちゃんと歩けて、自分の要求を表現することもできるようになったそうです。
単に預かるだけではなく、子どもの成長にとって大事なものをしっかり捉え、その成長も応援する小野さんです。
「一時預かり」の必要性を訴えて
小野さんたちは、平成12年に、一時的に子どもを預かり、親たちを支援する仕組み、ファミリーサポートの必要性を訴えて、区に陳情を出すなどの運動を展開しました。その結果、平成14年に大田区にめでたくファミリーサポートが誕生したのだそうです。
ファミリーサポートは、提供会員が自宅で、一時的に子どもを預かるという、地域の助け合いを区が仲介するという形をとった仕組みで、今では、多くの親子がその恩恵を受けています。子育て家族を助けたい、そのような熱心な運動から、少しずつ仕組みが整ってきたのです。
もう一回り大きな子育て支援の輪を
“地域で決して虐待死を出したりしたくない”、“親を支援することが、子どもの幸せにつながっていく”という、小野さんの力強い言葉が印象的でした。
小野さんの活動に賛同したお仲間が、今度はまたそれぞれの家でも預かりや手助けの活動を始めています。
“孤独な子育て”が多いといわれている中、親にとっても、子どもにとっても、 頼りがいのある、隣のおばちゃんのような存在は大きな支え、励ましではないでしょうか。
育児不安を抱えているお母さん、母子家庭、父子家庭など、公的なサービスだけでは、届かない部分がきっとあります。社会の状況を見まわして、ニーズを探り、“地域で子どもを育む”、新たな実践を考えていきたいものです。
ぷーさんの家がお手本になりますね。