大田区の在日外国人の子どもに対する日本語教育支援 「ぐるりっと」の見学を通して
大田区のめざす国際化とは・・・
在日外国人の子どももハッピーに過ごせること、ではないでしょうか。
■「NPO法人日本語ぐるりっと」の活動
山王会館で行われている「NPO法人日本語ぐるりっと」のこども日本語教室を見学しました。
この日本語教室は、日本語が不自由な外国籍等の子どもがスムーズに就学できるように就学目に日本語教育支援をする場です。月・水・金曜日の9時から12時までその子どもの状況に応じて、個人対応の教育がなされています。
5~15 歳の中国・フィリピン・スペインなど様々な国の子どもたちが集っていました。山王会館は静かな高台にあることもあって明るく、お部屋は家庭的で、きれい で、いくつかのこじんまりとした部屋に分かれていて、落ち着いて学習できる環境です。先生方はみなさんベテランで、日本語教育の研修をしっかり受けてきて います。登録している指導員が25名、常時活動しているレギュラーメンバーが15名ほどだということです。
レッスン風景を 見せていただきました。それぞれの部屋に分かれてテキストやカードを使って、またホワイトボードに書きながら、日本語の学習が和やかに行われていました。 使われているテキストは文部科学省の作ったものであいさつに始まる日常会話や単語が、カラーイラストで表現されていました。
この教室は、大田区こども日本語教室受託団体となっているので、子どもたちの授業料は無料です。
中には、学校に通い始めたものの、やはりもっと基礎の日本語教育が必要だということで、学校から送り込まれている子どもも来ています。「ぐるりっと」は、こ のような子どもの日本語教育の他に、親のさまざまな相談にのる支援もしています。ちょうどこの日は、フィリピンの親元を離れて日本在住の祖母に引き取られ る子どもの住民票を得るための手続きのお手伝いをしたスタッフもいました。役所での様々な手続きは必ずしも書類が英訳されているわけではないこともあり、 簡単とはいえません。
このように困っていることを察して、寄り添って支援するきめ細かい対応は、日頃子どもの日本語教育を 通して、共に子どもの成長をみまもっている、という信頼関係があるからこそ、できる支援かもしれません。地域の市民ボランティアが情熱をもって創り上げて きた日本語教育の姿を垣間見た一日でした。
さて、大田区には、このような就学前教育の場が、「ぐるりっと」の他に蒲田の消費者生活センター内の「micsおおた」でも「レガートおおた」が受託して同じように週3日行われています。
■大田区教育委員会の支援体制
学校に通うようになると、今度は、大田区は年間60時間の日本語教育の講師を各学校に派遣しています。平成27年度は小中合わせて138人がこの制度を利用 したそうです。さらにこれでも足りない生徒には、日本語学級が蒲田小・中学校にあり、週に一度、朝から直接行って、日本語教育を受けることができるように なっています。
■区内ボランティア団体による日本語教室
もっと日本語支援を必要とする子どもに対しては、いくつかのボランティア団体が区内で活動しており、授業の補習や受験に向けての学習支援をしています。「ぐるりっと」も就学後の子どもたちに向けての学習支援も低額で開催しています。
■課題
・「週3日」ということ
就学前に日本語教室で基本的な日本語を身につけて、学校での学習に臨む、という体制があるということはとてもいいのですが、親が共働きの場合など、週3回の日本語教室では、あとの2日をどう過ごすのかが問題です。また日本語教室がある日でも12時で終了なので、お昼ご飯、午後の過ごし方に親は悩むところで しょう。
家で子ども一人にするわけにもいかず、日本語教室をあきらめて、即学校に入れてしまう家庭もあるのが現状です。
そうなると日本語教育の派遣講師が来るにしても、日本語がわからないうちに、授業を受けなければならなくなり、子どもにとっては大きな苦痛です。
■対策
・日本語教室を週5日に。居場所の確保も。
学校と同じように月曜日から金曜日まで週5日、毎日しっかりと日本語教育の授業を受けられるようにすることです。集中して学習する方が、効率的で覚えも早いと思います。放課後は、親が共働きの場合は、各学校で行われている、放課後子ども教室に参加ができるようにするなど、学校と連携をとって、“居場所”を確 保するように支援するべきではないでしょうか。
・指導者養成の充実
週5日の日本語教室を実現するためには、現在の体制では支援者が足りません。しっかりとした日本語教育の支援者養成、実際の活動を目標とする支援者養成をする必要があります。長年現場で培ってきた経験を生かして、実績のある経験者の体験なども持ち寄り、区民協働で支援者養成講座を行われることも望まれます。
・課題解決や質の高さを保つために協議会の設置
日本語教育や日本語支援のボランティア団体、学校への派遣講師、日本語学級など、外国籍の子どもたちを囲む支援者が一堂に会して、協議会を作り、課題解決や質の高い日本語教育にむけての研究・協力をしていく体制をつくるべきではないでしょうか。それぞれの団体は経験の蓄積の中で「もっとこうあったらいい」と いうアイデアを持っているかもしれないからです。実態に即した支援のあり方を研究することが、子どもたちの幸せにつながることでしょう。
大田区には羽田空港があることで、多くの観光客が行き来をします。また、現在119か国の外国人が区内で暮らしています。大田区が「国際化」をめざすのであ れば、大田区に居を構える家族、特に子どもをしっかりとサポートするべきです。日本の子どもと同じように勉強をし、生き生きと自分を表現し、地域の子ども たちと交流をし、友情を育んでほしいと願います。豊かな交流の中で、お互いの文化の違いを理解しあい、助け合える、真の国際人を育てていくことこそ「国際化」といえるのではないでしょうか。