地域の高齢者と家庭を支える中核の施設 「大田区立特別養護老人ホームたまがわ」見学記
多摩川土手に隣接した、緑豊かな環境をもつ特別養護老人ホーム。ここは特養の他に、デイサービスセンター、地域包括支援センターが一体となって運営 がなされ、その連携で地域の高齢者と家族を支えています。特養の定員は200人、短期入所の人のためのベッドが40人分確保されています。
ホームの前で
まるで生活している街のように
介護度の平均は、4.2だそうです。基本的に生活の場であるため、高度の医療的ケアを要する人は入所できませんが、胃ろうの人の枠もあります。医務室もあ り、曜日ごと、様々な科の医師の巡回により、診察を受けることができます。ユニークなのは、カフェや美容院「ビューティーサロン多摩川」があったり、また 階ごとに廊下を「鵜の木通り」「多摩川通り」「下丸子通り」、各部屋は○○番地という呼び名にしていることなど、街や生活の場というイメージを醸し出すこ とで心やすさが感じられます。
歯医者さん
喫茶店「たまがわカフェ」・月・水・木・金は無料、火曜日は「音楽喫茶 暖家」 ケーキセット200円
ビューティーサロン多摩川
音楽会などが開かれる広々とした廊下
自然との調和
ゆったりとした広さのある廊下、そして廊下のところどころにおいてある木の長椅子が美しく、すわってみると大きな窓からは外の景色と「光と雨と風を感じる」し かけになっているのに驚きました。風の通り道があり、雨どいからは雨水を一点に集めて、滝のように流す工夫がされており、建物中にいながら、自然を肌感覚 で感じる工夫がなされているのです。季節の移ろいや自然から受ける刺激は、人間らしい生活の基盤といえるのでしょう。
廊下のところどころに設置してあるゆったりしたイス。すわっているのは施設長
食堂の不揃いなテーブル
ほとんどの方が車イスでの生活ですが、車イスの形状もその人によって様々です。食堂のテーブルはその人の状況に合わせた、それぞれの高さにしてあるので、全 体を見回すと不揃いです。「見た目にはよくないのですが・・・」と説明してくださる施設長。見た目より、使う人が優先されていることに安心感・信頼感を覚 えます。
車イスごと入れるお風呂
地域の力は絶大
驚いたのは、ボランティアの人がたくさん関わっているということ。たとえば、毎週火曜日には音楽喫茶が開かれ、様々な楽器の演奏を楽しむことができるそうで すが、そのコーディネートも演奏もボランティア。庭の手入れをしてくださっているのは、グリーンボランティア。美容師さんたちは、安価で髪を整えてくれま すし、寝たきりの人の髪を切る技術を持っているチームもあるそうです。地域交流も盛んで、特に夏のサマーフェスタは、アトラクションも楽しく、大勢の人で にぎわうそうです。
急がれる認知症対策
医療と介護の連携が大事な時代です。特にこれからは認知症対策が課題なので、地域の多くの医師に「認知症サポート医」になってもらい、早期からデイサービス やサロンに結び付けるなど、連携をとって、一体的なサービス体制を構築していきたい、とのこと。認知症は、早いうちに対策をうてば、重度化をふせぐことが できるからこそ、地域で意識を高めることが重要。ひきこもりは、認知症になりやすいので、外にでていく仕掛けが必要、特に男性のひきこもりが課題とのこと です。
これからの地域包括ケアシステム
介護保険制度の改正があり、要支援1,2が自治体の責任になります。高齢人口が増えることもあり、ますます地域で日常的に介護予防、助け合いや隣近所への目 配りが大事になってきます。特養たまがわを運営する社会福祉法人池上長寿園においては、今年からシニアステーション田園調布とシニアステーション田園調布 西の運営も始まりました。介護が必要になってから「さわやかサポート(地域包括支援センター)」に駆け込むのではなくて、早くから介護予防に親しめるよう に働きかけていきたいと意気込みを話された施設長さんでした。池上長寿園の長年の現場経験から効果的な介護予防が生み出されることが期待されます。