『優しいまちとは』 明石市の障害者施策
明石市で2016年4月に施行されたのが以下の条例です。
⇒「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」
この条例は、国の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」の趣旨を踏まえ、その実効性を高めるために「合理的配慮の提供」と「障害理解の促進」を柱として、具体的な施策を定めています。
障害があっても環境を工夫することで、社会で安心して暮らしていけるようにするのが「合理的配慮」です。明石市は徹底的にこの合理的配慮の提供に取り組むこ とにして、条例制定に取り掛かりました。まず条例を起草するために障害当事者である専門職(弁護士)を職員に向かえ、条例制定に向けての検討会を開催。 「障害があることにより差別を感じたこと、困ったこと、助かったこと」の経験談を募集し、その事例を検討することからスタートし、フォーラムやタウンミー ティングを開催、事業者にはヒアリングを行い、合理的配慮の提供のあり方を調査・研究し、具体的な市民・事業者・市との協力体制を条例に盛り込みました。
たとえば
【1】合理的配慮の提供を支援する助成制度
利用できる団体:商店など民間事業者・自治会など地域の団体・サークルなど民間団体
助成対象:コミュニケーションツールの作成(点字メニュー・チラシの音訳・コミュニケーションボードなど)上限5万円、物品の購入(折り畳み式スロープ・筆談ボードなど)上限10万円、工事の施工(簡易スロープや手すりなど)上限20万円
メニュー表。右のページは点字になっている
コミュニケーションボード
【2】障害理解の促進
小学校手話体験教室(4年生)・市民フォーラムの開催(相互理解・交流)
こうして明石市では目に見える形で、「合理的配慮の提供」が進みつつあります。レストランでの点字メニュー作りや簡易スロープなど、申請が次々あり、8月時 点ですでに助成額が100万円を超えたそうです。障害をもった人が町に出やすくなり、買物しやすくなったといいます。だれもが生きやすい共生のまちをめざ す明石市。
この他にも明石市は「手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例」(2015 年4月施行)を制定し、実質的なコミュニケーション支援の推進に取り組んでいます。感心したのは、手話通訳士の資格をもった人を任期付き正規職員として採 用していることです。手話通訳士として、職員研修や小学校での手話教室で講師役をつとめるほか、障害のある人が必要としていることを市のコミュニケーショ ン支援などの施策に盛り込んでいくというわけです。当事者の立場にたった支援とそれを支える施策、この両輪こそ、住みやすさの推進になるじつに優れたシス テムといえるでしょう。
「明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例」も 2016年3月に可決成立しています。これは地方公務員法の欠格条項に例外を設けたもので、成年被後見人・被保佐人であっても市の職員になれる、というも のです。成年後見は「ノーマライゼーションの実現」、「本人の自己決定を支援するための制度」であり、成年被後見人等である、という一事をもって一律に任 用の機会がなくなる、公務員という職業選択から一律排除されてしまうのは、「障害者差別解消法」の理念からいって問題があるという判断です。職務遂行能力 は個別具体的に判断するべきもので、内部での人事評価で個別にその人に合った仕事を見つけることが「合理的配慮」に当たるという考え方です。「合理的配慮 の提供を率先して行うこと」とした明石市は、差別の解消、共生の町作りの一環として、基本的人権を確実に保障するために、この条例作りにも果敢に取り組んだのです。