区民のくらしに寄り添っているか。持続可能な社会は構築できるか。大田区議会討論報告
第1回大田区議会定例会に続いて行われた予算特別委員会も3月24日をもって終了しました。大田区一般会計総額2,618億5,893万7千円と各特別会計予算についての審議がなされました。
大田生活者ネットワークは2017年度大田区一般会計予算に賛成し、保険事業特別会計予算、後期高齢者医療特別会計予算、介護保険特別会計予算に反対いたしました。
予算に対しての評価は、区民のくらしに寄り添ったものであるかどうか、長期的に、持続可能な社会をどう構築していくかという視点があるかどうかだと考えました。その意味では多くの課題がある大田区の予算案でしたが、23区初の「子どもの貧困調査」とそれに基づく「おおた子どもの生活応援プラン推進事業」への予算付けを評価し、期待を込めて賛成といたしました。多くの課題に対しては、この新しい一年間、検証しつつ意見を述べていきたいと思ってております。どうぞ様々なご意見をお聞かせください。
審議最終日の予算への討論を載せます。
●国保・後期高齢医療保険・介護保険は構造的な問題
まず特別会計ですが、国民健康保険事業特別会計は、毎年のように上がる保険料が、今予算での上がり幅は例年の倍以上です。保険料の上がった背景は、稼働層の社会保険への加入増と高齢化で後期高齢者医療制度への移行で、国保加入者数の減少、したがって、まかなうために保険料を上げるということですが、構造的な問題があるといわざるを得ません。
後期高齢者医療保険は、今後、後期高齢者人口が増える中、財源は、人口の減少が見込まれる現役世代からの支援金が4割も占め、今後も支え切れるのか、持続可能性のうえで、大きな課題があります。
●介護報酬引き下げは小規模介護事業所の経営を圧迫
また介護保険制度における問題は、2015年の改正の介護報酬の引き下げから、小規模のデイサービスなど、高齢者にとってもっとも身近な通所サービスの現場が経営難に追い込まれていることです。小さいからこそ、利用者にとっては家庭のような居心地の良さがあり、きめ細かなサービスを実践してきていました。しかもこれからは在宅を中心とするのが国の方針ですから、地域に根ざして実績を積んできている事業者の地域の介護力をさらに高めていく拠点として、地域包括ケアシステムが網の目のように安心の広がりと連携を強める拠点として共助のモデルとして存続できるように小規模が存続できるように手を打つことはできなかったのでしょうか。シニアステーションが予防事業に力を入れることは大変歓迎しますが、この広い大田区においては、シニアステーションだけでは覆いきれないと考えます。
●生活困難家庭21%、社会的包摂の重要性
一般会計予算について意見を述べさせていただきます。
2017年度の予算編成の重点課題の一つが「未来を拓く子どもたちや若者の成長を支える取り組み」とありますが、大田区では他の自治体に先駆けて区内の子どもの生活実態調査を行い、独自の調査方法から生活困難家庭を21%と算出しました。さまざまな体験の不足とともに、自己肯定感の低さなどが浮き彫りにされ、また生活困難層の親も相談相手や頼れる人がいないなど、その家庭が社会的に包み込まれるような支援の必要性、社会的包摂という概念を私たちが認識したことは大変意義深いことだと考えます。
「おおた子どもの生活応援プラン推進事業」が地域の社会資源との連携をもって、現場との関係を密にする中で、ニーズに的確に対応できるシステム作りに期待するものです。
●虐待をなくす、負の連鎖を切る
最も人権のはく奪である虐待をなくすことに全力を注がなくてはなりません。経済的な厳しさや孤立感は心の余裕をなくし、子どもに対する行き過ぎた体罰、虐待を生む素地にもなり、貧困の連鎖は暴力・虐待の連鎖とも密接につながるのです。あらゆる時点で負の連鎖を断ち切る方策を考える、課題意識を持つことが重要だと考えます。その意味で、子どもの学習支援に高校の中退を防止する相談支援を組み込んだことも評価いたします。
離婚届けの際に養育費の取り決めをしているかどうかを最初に聞くようになったのは、明石市の窓口だといいます。養育費を受け取っていないということが貧困の原因の一つであることに気が付いて始めたこの取り組みを国が取り上げ、離婚届の用紙に組み込むようにしたと聞きました。窓口での気づきが、問題解決につながることを思うと、このプラン・貧困対策を全庁的に取り組む、ということには大きな意味があることを思います。
●保育園入所に予約制を導入を評価
子ども関連でいうと待機児解消への取り組み、保育サービス基盤拡充の一環に、1歳からの予約制も加えられたことも大変評価いたします。生まれてからの一年の奇跡のような成長のスピードと養育環境の重要性を福祉費の間で申し上げましたが、そのような時期に保活で多くの親が気が休まらない日々を送ることは大変大きな問題です。今後予約制の枠を拡大していき、安心して育休の貴重な日々を過ごせるようにしていただきたいものです。
●区民のまちづくりへの参画、遠い
区民のまちづくりへの参画という点では、「地域力を生かした大田区まちづくり条例」は、昨年改正されたことで、住民発意の地区計画がその立ち上げから、町会や商店会の許可を要するなど、区民参画が難しくなってしまったこと、また久が原4丁目の問題にみるように、まちづくり条例に違反している業者が、違反してもなお建築を進めてしまう、ということで、区民は暮らしに安心感を抱けないという状況は大変残念なことで、改善に向けて努力しなければなりません。
また区民のまちづくりへの参画という意味では、区民にとっては、議会への陳情が一つの参画の方法でしょうが、大田区義会においては、区民の陳情が採択されることはほとんどありません。印象的だったのは、防災特別委員会においては、陳情審査の際に、このような説明が理事者からありました。陳情を出したその区民はその足で防災課に話に行き、話を聞いた防災課は「もっともだ」ということで、陳情の内容に即して改善をはかったとのことでした。すると委員会審査では、もうすでに防災課が改善をはかったのだから、ということで「不採択」という結果がだされたのです。
私にとっては非常に後味の悪い陳情審査でした。区民の気づきが行政の改善につながったのであり、むしろその研究心や意欲に敬意を示し、採択になるべきだった陳情ではなかったかと思います。区民の区政への参画の意欲を削ぐことになったのではないだろうかと心配しています。
●行政は、区民の力が最大限生かされるためにコーディネート役に
今、この社会はさまざまな課題を抱えています。行政も議会もいっしょになって、区民生活の暮らしやすさを追求するべきであり、そのためには、区民のエンパワメントを引き出すこと、高めることは非常に大切ではないかと考えます。自助・共助をいうのであれば、なおさら区民自らの力が発揮できるような風土、環境をつくることが大切です。そして行政にも議員にも個別事例から全体の仕組みの改善をはかっていく能力が求められているのではないでしょうか。
多くの人の知恵やコーディネート力が今ほど、必要な時代はありません。すばらしい大田区を作っていく大きなうねりを区民といっしょに作っていく大田区でありたいと願います。
●勝海舟記念館整備、「昭和のくらし博物館」のような、学べる博物館に!
最後になりますが、勝海舟記念館の整備に4億681万2千円が計上されています。
勝海舟が大きな時代の変遷期に、世界の中の日本を俯瞰してみることができ、たぐいまれなコーディネート力で、江戸が火の海になるのを救ったわけですが、紛争のたえない地域のリーダーが実は勝海舟に大きな関心を寄せているという話を聞きました。大田区が国際都市をめざすのであれば、勝海舟のような人物の偉業、思想をしっかり学ぶことのできる記念館にしていただきたいと願います。現在、久が原にある昭和のくらし博物館には、年間約5千人のお客さんがあるそうですが、最近とみに外国人の来訪者が多く、北欧、中東はじめ、世界各国から、近代日本の発展の鍵は何か、を学びたいと訪ねてきたり、また「博物館学」を学びにくるお客さんが多くなったそうです。昭和の暮らしの中にある日本人の知恵や工夫が生活感のある展示と体験によって知ることのできる生き生きとした博物館の在り方は国内外でも珍しく、他自治体からは指導の引き合いがきているそうです。
このように明治維新、戦後復興、これら日本が大きく飛躍した要因について知りたいと考える、知的欲求の高い外国人にとっては、大田区は大変魅力的なストーリー性のある地域なので、グルメマップ、観光マップを作るだけではなく、区民の誇りともなる、すでにある観光資源をさらに磨き、豊かに育てる努力をしていただきたいと思います。
区民に寄り添い、区民のエンパワメントを引き出し、区民とともによりよい大田区を作るための予算となることに願いを込めて討論といたします。