NPO法人 特別養子縁組支援グミの会サポートの主催の講演会に参加しました
虐待をなくす、予期せぬ妊娠による不安や絶望を救う!
「特別養子縁組の現状と未来」
すべての赤ちゃんにあたたかい家庭を
矢満田社会福祉相談室・主宰
社会福祉士 矢満田篤二
9月2日、NPO法人特別養子縁組支援グミの会サポートの主催の講演会に参加しました。グミの会は、特別養子縁組で親子になった家族の会として2011年に発足。年に4回、交流会や研修会を開催して会員同士の繋がりを図る活動をされている団体です。
ここで紹介された「赤ちゃん縁組」は愛知県から全国に広がり、多くの子どもたちを救い、幸せな家庭を生み出し、今では厚生労働省も推奨しています。その「赤ちゃん縁組」の推進役を果たしてきた、元児童館職員の矢満田篤二さんのお話を伺いました。
講演をされた矢満田篤二さん
【「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす愛知方式がつないだ命・矢満田篤二 萬屋育子著・光文社新書】も参照してまとめました。
「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命 (光文社新書)
〔1〕虐待が最も多いのは0歳児、
そして虐待死の多いのは0歳0か月0日
虐待の類型:身体的虐待(54.5%)、ネグレクト(34.1%)
実母の抱える問題:望まない妊娠、計画していない妊娠(54.5%)
妊婦健診未受診(40.9%)
加害の動機:子どもの存在の拒否・否定(31.8%)、保護の怠慢(11.4%)
〔2〕特別養子縁組制度
1988年「子どもの利益のため」に民法に追加された制度。家庭裁判所の審判により、法律上、実の親子同様の関係を作る。戸籍上の表記も実子と同じように「子」「長男」「長女」と記され、産みの親の親権は停止、親権は養親に移る。一方、普通養子縁組や里親制度では、親権は産みの親に残る。望まない妊娠の末、自殺する親、生まれてすぐ遺棄すること等、虐待から子どもを守るためには、出産前からのケアが必要。愛知方式は、出産前からの養親への引継ぎを丁寧にサポートする。国が「里親支援事業」に「里親養育援助事業」「里親相互援助事業」を追加し、愛知県では里親サロンを開設し、「血のつながらない親子」という仲間が集まって、当事者同士で悩み事を相談している。職員や周囲の福祉関係者をつなぐ場にもなっている。
〔3〕赤ちゃん縁組 ~愛知方式・児童相談所の挑戦~
ある事例:たった1回の暴力で、予期しない妊娠に至った高校生。両親にも打ち明けられずに一人苦しみ続け、自殺をはかるつもりで遺書まで書いていた。母親がいつもと様子の違う娘に気が付き自殺は阻止できた。しかしもう妊娠7カ月過ぎ。母親は愛知県の児童相談所に「生まれてくる赤ちゃんを幸せに育ててくれる方を紹介してほしい。被害者である高校生の娘は、子どもは育てられない」と相談した。
児童相談所の職員は、養親たちの自主交流会に登録している長年不妊治療をしても子どもに恵まれずぜひ子どもを授かりたいという方と連絡を取り、双方の橋渡しをした。双方とも児童相談所の所管する地域ではなかったので、児童福祉法に基づく措置ではなく、「養子縁組あっせん」としての対応だった。
このとき児童相談所職員だった矢満田さんが高校生にかけた言葉は「予期せぬ妊娠は大変だったけれど、赤ちゃんを授かりたいと願っている夫婦のためにコウノトリの役をしてあげるのだと考えよう」。高校生は自宅から遠く離れた産院で出産、養親との交流の後、養親に赤ちゃんを託した。高校生は学校や地域の人に知られることなく出産を終え、無事に復学。自分がコウノトリになれたこと、赤ちゃんにはとてもいいお父さんとお母さんができたことを喜んだ。
「特別養子縁組申立」の審理を担当した家事審判官が「こういう審判は、実親も赤ちゃんも養親もみな幸せになれることなのでやりがいがある」と言われたとのこと。特別養子縁組制度は「三方良し」の制度といえそうだ。
愛知方式・赤ちゃん縁組で生まれた家族の集まり
〔4〕妊娠中からの母親へのケアが必要な理由
ほとんどの児童相談所では、予期しない妊娠を強いられた女性からの「産んでも育てられない」という相談に対して、「生まれたら乳児院に保護するので、それから相談に来るように」と戻されるのが現状。たとえば高校生は、妊娠・出産したということが知れたら、ほとんどの場合、退学になる。配慮が必要で、遠くで出産することも視野に入れる。たとえば、ホームステイ型。事務手続き面では、住民票もいったんそこに移して、妊婦健診をきちんと受け、母子手帳を発行してもらう。児童福祉士の権限の範囲内で、地域と連携してさまざまな工夫が可能。全国の児童相談所が相互に連携しあって実践すれば、生後0日で虐待死する赤ちゃんが救われる。
予期せぬ妊娠で絶望的にならずに済むように、妊娠中から向き合って、生まれてくる子どもの将来をどう支えていけばよいか、話し合うサポートが必要。経済的な困窮なら生活保護。生活する場所がなければ、母子寮。情報を。妊婦さんをケアすることが、お腹の赤ちゃんの命と健康を守ることにつながる。どうしても育てられないと苦悩している女性には、赤ちゃん縁組を。
〔5〕養子縁組の流れを作ること。「恒久的な家庭を作ること」が「子どもの権利保障」
子どもが成長するために最も大事なのは、一貫して子どもを愛し、育む保護者であり、親と子が愛着の絆を結ぶことが不可欠。親の側の愛着の第一歩は、赤ちゃんを見て抱いたときに「愛おしい」「この子を育てていこう」「守っていこう」というその気持ち。だから養母となるお母さんが、赤ちゃんの時期から子育てをすることが重要。赤ちゃんを切望していた女性が生まれたその日に胸に抱くことで愛情ホルモンであるオキトシンが分泌されて、母性のスイッチが入る。
乳児院で数カ月以上も過ごさせてしまうと、赤ちゃんが愛着障害になってしまい、養親のところで、「試し行動」や「赤ちゃん返り」がでてしまう。速やかに養親のもとに託すことがとても重要。
〔6〕社会的養護を必要とする子どもの処遇の問題点・施設養護中心
施設養育の集団養育では、職員一人で複数の子どもをみる。しかも交代制なので、8時間ごとに「母親役」が交代することは安定した愛着形成の阻害になる。京都府立大学教授・津崎哲雄先生(児童福祉学)の発表では「幼い子ども(0~3歳)を親(あるいは親代わり)のいないままに入所施設に委託するのは、愛着障害、発達遅滞、脳発達における萎縮性の観点からは危険な状況にさらすことだといえる。したがって、乳幼児、親(や親代理)による養育(ペアレンティング)の機会を奪われることによって引き起こされるネグレクトと損傷は、こうした幼児に暴力を加えるに等しい」。ここでも施設での養育が、社会的なネグレクトであると警告されている。
〔7〕なぜ日本は施設入所があたりまえになっているのか
当事者の訴えがないと状況は改善されない・社会的養護を受けている当事者の子どもはもちろん、その生物学上の親たちが「社会的養護下にある子どもたちの環境を改善しよう」と訴えることは、ほぼ不可能。
世界のスタンダードは家庭養護。施設養護に偏った日本の社会的養護の在り方が「社会的なネグレクトである」と批判されるようになってきている。
赤ちゃんはその親の胸に抱かれてリラックスして「この人の胸にいれば安全で安心だ」という満足感を味わい、これが愛着形成の第一歩。以前、愛着形成は3歳までが重要だと言われていたが、今は脳の研究が進み、生後3か月までが大事で、3か月までにできた愛着の絆は非常に深い。赤ちゃんは胎児期に手を伸ばせば子宮にあたり、「私は守られている。安心」という気持で過ごしていた。生まれてきたら、まったく違う環境に不快感。そのとき心臓の鼓動が聞こえるように胸に抱いて「よく生まれてきたね。待っていたよ」と声をかけてあげる。人生最初の不快感を取り除くことが愛着形成の第1歩。
子どものための福祉行政機関が、愛着障害についての視点を欠いた措置を続けていてはいけない。0歳児のときに親から受けた虐待は将来にわたって影響する。できるだけ幼少期のうちに愛着の絆を結べるような家庭を与えることが最良の策。人生における子ども時代の密度は濃い。その密度の濃い中の大事な最初の3カ月。無益に過ごさせてはいけない。
〔8〕連鎖
虐待による心の傷が「自分はダメだ」と思い込む、人を信じられない、頼れない、といった問題を引き起こし、それが失業や生活困難、あるいは離婚、DV、さらに子どもへの再虐待にまでつながっているのではないか。だとすれば、児童虐待問題は多くの社会問題の出発点であり、終着点なのではないか。
〔9〕厚生労働省による画期的な助言通知(平成23年)
・相談者が匿名を希望した場合であっても相談に応じること。
・養育できない・養育しないという保護者の意向が明確な新生児については、妊娠中からの相談を含め、出産した病院から直接里親の家庭へ委託する特別養子縁組を前提とした委託の方法が有用である。
・特に愛着形成に重要な3歳未満の時期は、施設への措置期間を短くし、里親委託を推進することが必要である。
矢満田さんのお話には大変感銘を受けました。物言わぬ赤ちゃんの声を代弁しているかのようでした。だれでもお母さんが大好きです。1対1の絆を強く求めるのは子どもならだれでも同じ。なぜ施設に入れられなくてはならないのか。3歳になるとき乳児院から児童養護施設に移されることも子どもにとっては大きな試練です。せっかく慣れた保育士から引き離されるのです。もう子どもたちに絶望感は与えないで、十分苦しみは味わってきたのだから、と思うのです。特別養子縁組制度はサポート体制が充実すれば、すばらしい制度だと感じました。