「香りの害」 -大田区議会第2回定例会のご報告【2】
大田区議会第2回定例会(6月13日~6月24日)のご報告
「香りの害」を知っていますか
香りの元となる「揮発性有機化合物」が体調不良の原因になることも
一般質問のもう一つのテーマは「香りの害」です。答弁を含めた全文を報告いたします。
●化学物質の影響調査や啓発周知の必要性について
テレビでは香りに関係するコマーシャルをみない日はありません。2008年に香り付き柔軟仕上げ剤がアメリカで人気になり、日本国内でも柔軟剤、消臭除菌スプレーや制汗剤など香りブームが起きました。2013年9月には、国民生活センターが「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」を発表し、柔軟剤による体調不良の相談が急増していることを明らかにしました。
区内のある小学校では、給食着を1週間着た後に洗濯して次の子どもに回すという方法を取っていますが、洗濯されて回ってきた給食着の強い柔軟剤の香りが気持ち悪くて耐えられないという親子の話を聞きました。その給食着を持ち帰って他の衣類と一緒に洗うと他の衣類にも匂いが移ったことも困ったそうです。学校に相談をして、その子ども専用の給食着を用意してもらう配慮を受けている例があります。
香りの元となる人工香料が「揮発性有機化合物」であるため、化学物質の影響で体調不良を起こす人があります。農薬や殺虫剤、たばこなどと同じで、目には見えない微量の化学物質が多種多様な症状を引き起こすのです。
重症化すると「化学物質過敏症」を発症し、一度発症すると効果のある治療法も治療薬もなく、日常生活に著しい支障をきたします。
人工香料は、現在、日本では安全性の評価がなされておらず、業界の自主規制に任せられており、成分表示さえなされていません。ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の水野玲子さんは、イソシアネートという極めて毒性の高い物質について警鐘をならしています。柔軟剤では香りの持続性を高めるために、香料成分をイソシアネートというポリウレタン製のアロマカプセルに閉じ込め、それを少しずつ破裂させるしくみをとっていますが、このイソシアネートはごく低濃度でもアレルギー反応を起こしやすく、症状としては皮膚炎、かゆみ、ぜんそく、胸の圧迫感、めまい、肩こり、全身倦怠感、朦朧感、意識喪失、記憶障害など、そして発ガン性もあるとされており、欧米では厳しく規制されていますが、日本では規制がありません。
昨今、たばこの健康への影響が周知されていますが、人工香料の害も受動喫煙と同じです。香りの好き嫌いではなく、毒性の強い化学合成物質が使われている場合のあること、感受性の高い子どもにはより多くの影響を与える可能性が高いということです。
平成30年10月5日発行の日本医師会ニュースでは「香料による新しい健康被害も」というタイトルで「香料による新たな公害であり、まさに『香害』です」と香りの害のことを紹介しています。「治療としては、誘因となる物質を回避し、良好な環境で生活するしかありません」とあります。また警告として「香料を使った製品は、育児、保育の現場でも使用されており、不調を訴えることのできない乳幼児に将来どんな影響があるのか心配だ」と書かれています。
具体的な法的規制がないからといって、このまま商業ベースに流され続けると被害が増えるという懸念があります。有害な化学物質を体内に取り込むことを避けるべきですが、まずは生活環境を見直すきっかけを示すことが必要です。
すでにいくつかの自治体では啓発チラシやポスターを作成していますが、柔軟剤や消臭・除菌製品によって体調を崩す人が出ていることや人工香料による健康被害の可能性について周知をすることが必要だと考えます。成長過程にある子どもの保護者にはぜひ知っていただきたいことです。
【1】お聞きします。化学物質に囲まれた現代の生活の中ではだれしもなんらかの影響を受ける可能性があります。そして何が原因でどういう影響があるのかわからないというのが現状です。子どもたちの健康への影響を鑑み、また予防原則にたって、化学物質の影響調査が必要だと考えます。化学物質過敏症と思われる症状があるかどうか、学校で調査をしていただきたいと考えますがいかがでしょうか。またお便りなどで啓発周知を図っていただきたいと考えますがいかがですか。
答弁:(教育委員会・教育総務部長:後藤 清)
香りの害に関する調査と啓発についてのご質問ですが、学校では、児童・生徒の健康状態を把握するとともに、健康診断の際に用いる「保健調査票」を年度当初に保護者から提出いただいております。
保健調査票は、内科・眼科・耳鼻科・歯科や感染症・予防接種などに関する質問項目のほか、お子さんの健康についてお気づきの点や学校に知らせておきたいことを記入する欄を設けております。この欄に香料のもととなる揮発性有機化合物などにより、頭痛、めまい、吐き気などの症状があらわれる化学物質過敏症のお子さんについても詳細をご記入いただくよう、保護者にご案内しております。申し出のありました内容につきましては、教職員間で情報共有するとともに、校内で必要な配慮ができるよう努めております。
さらに今年の3月には区立小中学校の全児童・生徒の保護者に対して保健調査票への記入のお願いと合わせて化学物質過敏症についてのチラシを配布し、周知を図ったところです。
また議員お話のとおり、過去には給食当番が使用する白衣に使われた香り付き洗剤により化学物質過敏症を訴えたお子さんに対して、学校が代わりの白衣を用意して対応した事例があり、その際の学校の対応を速やかに小学校養護教諭部会、中学校養護教諭部会にて周知いたしました。
今後も保健だよりなどの様々なツールを活用し、学校保健の普及啓発を図ってまいります。
●区民全体への啓発周知と相談窓口の設置を
化学物質過敏症でご苦労されている方の話を聞きました。
彼女は、川崎市の産業道路の近くに住んでいて昨年3月に突然、化学物質過敏症を発症したそうです。工場のけむりや車の排気ガス、歩きタバコに接するのが辛くて外に出ることができなくなったそうです。電子タバコに含まれる成分によって痙攣を起こし、救急車で運ばれたこともあり、仕事もできなくなったそうです。病院では心因性だとの診断を受け、理解されない辛さも味わったそうです。少しでも空気のきれいなところをと、昨年7月に大田区久が原に引っ越してきたとのこと、久が原ではマスクをしなくても生活でき、外出する頻度も増え現在は復職もできているそうです。歩きたばこを見ることもなく、道に吸い殻も落ちていないそうです。
しかし、1歳の子どもを保育園にお迎えに行ったとき、他の人の柔軟剤のにおいが子どもの服や髪の毛に付いていて我が子を抱きしめてあげることができないといいます。一度化学物質過敏症になると、人工合成香料という化学物質にさらに敏感に反応するようなのです。せっかく久が原の生活が気にいっているところなのに、また香りの害に苦しむ日々、思い切って保育園に相談したそうですが、「がまんしてください」といわれ、残念ながら理解はされなかったそうです。
また別な方は、子どものために図書館に本を借りに行ったときに職員の衣服の柔軟剤の匂いが強くて辛かったそうです。だれしも悪気はないのですが、締め切った室内では、特に影響が大きくなってしまう場合があります。
【2】お聞きします。
区民全体への啓発周知と相談の窓口を設置していただきたいのですが、いかがですか。
答弁:(健康政策部・保健所長:西田みちよ)
香料に含まれる化学物質による健康被害に関する周知と相談窓口についてのご質問ですが、保健所生活衛生課では室内空気の汚れなど、住まいの衛生相談に応じており、化学物質についてはシックハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒド、トルエン、パラジクロベンゼンの3物質について調査を行い、相談者に改善方法等、適切なアドバイスを行っています。
香料に含まれる化学物質による健康被害については病態や発症のメカニズムが未解明であることから現段階では相談をお受けして対応することは難しい状況です。
一方、香りの苦手な方や過敏な方など様々な体質の方がいらっしゃることを踏まえ、今後、お互いに快適に生活を送ることができるよう配慮するエチケットやマナーの問題として消費者教育の中で周知することが可能かどうか、地域力推進部と研究してまいります。
今はまだ訴える人を「神経質な人」という見方をする社会ですが、過去の公害問題を見てみても、被害の因果関係を企業が認めず、訴訟が何十年も続く歴史がありました。国が動かずとももっとも区民の生活に近い基礎自治体こそが区民の実態に寄り添い、その健康に注意をはらうべきではないでしょうか。大田区においては、いち早く学校現場をはじめ、公共施設が合成洗剤ではなく、健康にも生態系にもやさしい「せっけん」を使用するようになったことを高く評価いたしますが、引き続き、「化学物質」への健康への影響には注意を払っていただきたいと考えます。