シュタイナー教育100周年 「世界がかわる学び」
存在を育む学び
持続可能な社会と教育の未来
ユネスコとシュタイナー教育、響き合う100年のインパルス
対談
大阪府立大学 副学長 吉田敦彦さん×
聖心女子大文学部教育学科 教授 永田佳之さん
主催:未来の教育を考える会「ヴァルドルフ100ジャパン」
2019年8月18日 渋谷区文化総合センター大和田にて
先日、たまたまある学校関係者から最近の学生について話を聞く機会があった。
うつ傾向や、あるいは、気にさわることがあると暴力的になる学生が増えている。自分に自信がない。常に社会に取り残されているような不適切感を抱いている。コミュニケーションをとるのが苦手。自分にも、人にもちゃんと向き合えない。ものや人に対して関心が薄く、能動的に出合おうとしない。
そんな学生を前にして“社会は何をしてきたのだろう”とその教員はいう。
そんな話を聞いた後に「存在を育む学び」というタイトルはタイムリーだった。
シュタイナー教育はルドルフ・シュタイナーの言葉「子どもを畏敬の念をもって受け入れ、愛をもって育み、自由に向けて解き放つ」に示されるように、個性を尊重し、最大限にその能力を引き出し、「意志」を育み「創造性」「思考」を養う。教科書や点数評価はない。自分らしく描くこと、作ることや演劇など文化や芸術に重きを置き、歴史など全ての教科では意見を交換しながら“考える”プロセスを大事にしている。人間的な精神性が土台となり、そのうえに知識や技術の習得があるのだと考える。そしてそのような主体的な学びの在り方が新しい世界を切り開いていこうとする意欲や想像力につながっていることを多くの卒業生の活躍によっても知ることができる。
対談においては、ユネスコが提唱する地球規模の課題に対応する教育、ESD(持続可能な開発のための教育)の実践において、世界でシュタイナー教育は力強い実践を見せてくれているということが報告された。
ユネスコ憲章の前文に
「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」とある。
ユネスコ憲章もシュタイナーの思想も共に歴史の失敗に学んで生まれてきているが、今また人類全体、地球規模の危機的状況の中、「人類の知的及び精神的連帯」は切望されている。政治と経済だけではない「文化」を耕すことで持続可能な未来を創っていくことができると。「人間存在」を深める学び、それから湧き上がる、この世界を守っていこうとする意志が未来への希望になるにちがいないと、対談は結んだ。