“子どもの権利”を推進する一環として 「子どもの最善の利益を求めて」「一定程度の休息は必要」
ひきこもりは悪いことではない
札幌市は、ひきこもり支援事業を「札幌市子ども未来局こども育成部 子どもの権利推進課」が担当しています。それは、札幌市では、「子どもの最善の利益を実現するための権利条例」(以下、「子どもの権利条例」)の理念の下にひきこもり事業を行っているからです。一人ひとりの状況を尊重する姿勢を打ち出し、また行政の縦割りを克服すべく、切れ目のない支援として速やかに動くこともねらいとしています。札幌市の子どもの権利条例は18歳までを対象としていますが、ひきこもり対策では年齢制限を設けないとするなど柔軟な対応がとられています。
⇒札幌市公式ホームページ 「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例」
⇒札幌市公式ホームページ 「困難を抱える若者への支援」
一般的にひきこもりというと、“なんとかならないか”という意識になりがちで、家族も地域の中で孤立し、どこにも相談しにくい状況があります。札幌市の対策として「ひきこもりは悪いことではない」という認識の周知活動は、当事者にとっても家族にとっても社会に一歩踏み出しやすい大事な環境作りといえます。孤立化を避けることが最も大切なことだとの担当者のお話でした。
●ひきこもり実態調査
札幌市では平成30年度に市内在住の15歳~64歳の男女1万人への無作為抽出アンケートと当事者・民生委員へのアンケート調査を実施。ひきこもり当事者の推計人数は15歳~39歳までで6,604人(1.25%)、40歳~59歳までで8,128人(1.45%)、60歳~64歳では5,091人(4.09%)でした。希望する支援としては「相談窓口」、「同じ悩みを持つ人同士の居場所」が多くありました。
●対策事業
・ひきこもり地域支援センター
・集団支援拠点「よりどころ」
柱の一つである「ひきこもり地域支援センター」は北海道精神保健推進協会への業務委託ですが、ひきこもり専門の一次相談窓口として電話、来所、メール、訪問、出張相談を行っています。
もう一つの柱である集団支援拠点「よりどころ」は民間の当事者団体が行う当事者会と家族会で、それぞれ月に2度、定期的に行っています。専門家も入ることで、要支援者の発見や家族支援の機能となっており、行政の相談窓口に行くというハードルを軽減し、気軽に行ける居場所を目指しているとのことです。
家族の焦りや悲観する気持ちが親子関係にも影響することを考えると同じ悩みをもつ人と出会うピアサポートは、大きな励ましにちがいありません。月2回、曜日を固定することで、安定した参加者があるとの説明を聞きました。そこで出会った人の勧めでアルバイトを始めた人もあったとのことですが、その人自身が自分から前向きになれる居場所の大事さを思います。
●フリースクールへの財政的支援
札幌市では不登校児童生徒の通うフリースクールに対して、財政的な支援があります。それは子どもには「学ぶ権利」があり、子どもの学ぶ場所を支えることの必要性からだといいます。不登校がずっと続けば、ひきこもりに繋がるわけですから、子どもが自分らしくいられる居場所を大事に考えることは、不登校対策でもありひきこもり対策にも通じることなのです。行政の縦割り構造を打破する「子どもの権利条例」の効果、札幌市の人権意識が施策に生きている一端が現れています。
残念ながら多くの自治体では(大田区も)フリースクールに対しての財政的支援は行われていないのが実情です。
●大田区のひきこもり対策
大田区では保健所健康づくり課健康づくり推進担当が、地域庁舎にて年に3回、ひきこもり支援の居場所として当事者同士の交流・相談機能を持つ「茶話処」を開催していますが、呼びかけ、周知が課題だと聞きました。
定期的な継続した開催、ふらっと参加しやすい地域の居場所を増やすなど、環境作りには工夫がいるでしょうが、なにより札幌市のように不登校対策と連動してフリースクールへの財政支援他、多くの居場所作り等、一人ひとりの実情を尊重する理念が根底にあることが必要です。
※これは、大変遅くなりましたが、夏の行政視察の報告に基づきます。
私の所属している「健康福祉委員会」では、障害者支援施設(青森市)、ひきこもり支援事業(札幌市)、手話推進事業(石狩市)、障がい者就労(江別市)、ネウボラの取り組み(千歳市)、の5か所、それぞれの事業について学ぶために青森県と北海道に視察に行きました。(8月27~29日)。視察先の選定は委員の希望と協議によって決められます。
それぞれに大変学ぶことの多い視察でしたが、特に印象的だった札幌市の事例から報告させていただきました。
★子どもの権利に関する勉強会が開催されます!
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