児童虐待の根絶をめざして 施設内暴力をどう防ぐか ~当事者の声を聴く~

親からの虐待などの理由により児童養護施設で暮らす子どもたちがいます。多くの施設職員は子どもたちの心の傷に寄り添いながら、その幸せと自立を願いつつ、情熱をもって働かれています。

しかし残念なことにこの社会的養護の元で、子どもたちが虐待を受けることがあり、2008年に改正された児童福祉法においては、施設内虐待の防止が明文化されました。https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/02/dl/s0201-7b_0001.pdf

また施設内虐待等について届出や通告があった場合は、それを受けて調査する制度も法定化され、厚生労働省では、届出等の状況と都道府県市が対応した結果について、毎年度とりまとめて公表しています。

被措置児童等虐待届出等制度の実施状況について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/syakaiteki_yougo/04.html

2018年(平成30年)の実施状況をみると届出・通告は285件、事実確認ができたものが95件、身体的虐待が58%、ネグレクト2%、心理的虐待16%、性的虐待24%でした。

職員からの身体的虐待の事例ではモップを足に挟ませて正座させる、平手打ち、蹴るなど、心理的虐待では「死ね」「てめえ」等の言葉を使う、性的虐待では、居室に入って、わいせつ行為、自宅に誘って性交渉などが報告されています。また子どもからの通告があっても事実と認定されない場合や通告する力のない子どものことを考えるとこれも氷山の一角かもしれません。

 

暴力・虐待は決して許されない行為であり、家庭での虐待など、養育困難な状況から保護された社会的養護の元にある子どもたちには、なにより安心・安全の確保が必要です。

 

児童養護施設で6歳から18歳まで育った女性からその体験と願いを聴く機会を持ちました。報告いたします。

 

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 児童養護施設内の問題

  • 知る権利、意志は尊重されない?

兄弟ばらばらで施設に入れられたので、会いたかったが、どこにいるか教えてもらえず、会わせてもらえなかった。施設内での移動があっても、小グループのところに行きたいとか、里親のところに行きたいなど、自分の意志を聞かれたことはない。

 

  • 暴力

寒い時期に冷たいシャワーをかけられ、高熱を出した子どもがいた。私は職員から叩かれて壁にぶつかり鼓膜が破れた。その影響とストレスで突発性難聴になり、左耳はほぼ聞こえなくなり、右耳は中度難聴になる。

 

  • 性暴力、訴える術がない

男性職員が体を触ってくる。「やめてよ」というと「冗談だよ。冗談がわかんないのかよ」と返してくる。その問答を聞いている男子にとっては、体を触ることはしてもよいことになってしまう。性暴力のループは職員も加害者。男子には足や胸を触られる。しかし小さいうちは、自分の身の上に何が起こっていて、なぜ嫌なのかを認識し、表現する力がなかった。施設内のことは口外してはならないと言われていたので、外部の人に訴えることもできなかった。

 

  • 子ども同士のトラブルを放置

盗みがあっても、盗まれた方が悪い、といって、職員は解決のために動いてくれない。乱暴な子どももいるが、身を守るシステムがない。

 

  • 施設内での差別

まるでカースト制度のような差別があった。一番優遇されるのは、両親のいる子ども、2番目は片親のいる子ども、3番目は祖父母のいる子ども、4番目は親の亡くなっている子ども、最も底辺は、親が刑務所に入っている子ども。

 

私はもっとも底辺の階級になるのだが、なぜか私の個人情報を他の子どもたちは知っていて、他の子どもたちからも職員からも攻撃の的にされた。「みせしめ」のように怒られるようなこともあった。

 

保護者といえる人がいなくて、だれからも訴えてこられる心配がないからか。

 

現在、施設は、国の方針でできるだけ家族のような規模の養育環境がよいとされて大舎(10~15人部屋)から小舎(6人部屋)への移行を進めている。しかし私は、施設内の大舎(10~15人部屋)に入れられていた。視察が来たときだけはみんな小舎に移らされる。見せかけだけ。

 

このことで、「うそつき」とさわいだことがあり、叱られ、1ヶ月半、反省部屋に閉じ込められた。叱られた時に閉じ込められる部屋があり、施設内では「反省部屋」と呼んでいるが、視察があるとその部屋には「物置」というプレートがかかる。

 

  • 心の回復がなされない

カウンセラーとは月に1度話せるが、毎回ちがうカウンセラーなので、毎回はじめから話さなければならない。感情を出しきることができないので、トラウマから解放されず、ストレスもたまる。回復プログラム、セラピーが必要。

 

  • 意見表明権がない、訴えるすべがない

施設内の体罰についてカウンセラーに訴えても、むしろ職員に叱られて、「だれにも言うな」と圧力をかけられる。訴える気力がなくなる。また訴えても証明する手立てがなく、職員が「この子は嘘をつく子です」というと、外部の人はそれを信じてしまい、嘘つきのレッテルが貼られ、ますます、だれも話を信じてくれない。

施設に出入りしているボランティアに対しては、個人的な話をしてはいけないと言われている。

 

  • 精神安定剤の常用

落ち着かない子ども、泣き叫ぶ子どもには、精神安定剤が飲まされていた。もうそんな年齢ではないのによだれの止まらない子ども、おねしょの治らない子どもがいたが、薬のせいではないだろうか。自分も一時期、反抗的な態度を取ったせいか、抗うつ剤を飲まされ、そのせいかベッドから起き上がる力もない時期もあったが、自分で薬の服用はやめた。現在、痛みに関して鈍感なところがあるが、薬の後遺症ではないだろうか。

 

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学校における体罰の場合は、多くの場合、保護者からの訴えで子どもが救われますが、社会的養護の元にある子どもたちの場合は、保護者から分断されており、しかも多くの親は養育困難であることから、親からの救済は望めません。

 

そこから逃げることのできない子どもたちの人権擁護のシステムがあるとすれば、それが機能するように私たちは、早急に全力でとりくまなければなりません。

 

子ども自身の意見表明権をどのように保障するかが大きな課題です。

子ども一人一人が個として尊重され、最善の利益が守られる環境になるために、今後も当事者の声を聴き、実態を知り、子どもが望む施設の在り方を追究していきたいと思います。