児童虐待の未然防止・虐待対策に方向転換を!

児童虐待の未然防止について 

3月25日に第1回大田区議会定例会・予算特別委員会が終了しました。

私は今回、児童虐待の未然防止について質問をしました。児童虐待の数は過去最高を記録し、対処療法的な対策ではもう対応しきれないのではないか、という問題提起をしました。

一旦、親子分離をしても、虐待をする親元に子どもが戻されれば、また虐待が繰り返されます。

産前産後ケアにはじまる「親子の愛着形成」の促進、親へのエンパワメント、心の問題を解決するための「親への回復プログラム」、子どもの心のケアに力を入れて自己肯定感を取り戻すこと、社会的養護下で育った青年へのサポート、人権教育を含む包括的性教育など、“保健施策の本領”を発揮しない限り、虐待の根本解決には至らないと思います。

 https://www.youtube.com/watch?v=n58Q6w_jU-4

 

以下、質問全文です。答弁はYouTubeで確認してください。

 

 

児童虐待の未然防止について

―いのちと人権を尊重する大田区であることを願ってー

大田区議会・第1回定例会、予算特別委員会

款別質疑(衛生費)

 

  • 児童虐待対策は方向転換を!

児童虐待、いじめ、不登校、ひきこもり、自殺、DVなど、さまざまな社会問題は深刻化し、それぞれに対策が練られているところですが、なかなか出口が見えません。2000年に児童虐待禁止をうたった「児童虐待防止法」ができても児童虐待は増加の一途をたどり、2013年にいじめ禁止をうたった「いじめ対策基本法」ができてもいじめは増えるばかりです。

 

たとえば、東京都の虐待対応件数は2013年5,414件、2019年21,659件で、対処療法的対策では限界にきていることは明白です。各児童相談所は通告に追われて本来すべき支援ができなくなっているのが現状ではないでしょうか。抜本的な対策の転換が必要だと考えます。どの社会問題にも共通しているのは、「心の問題」ですが、今回は、児童虐待の対策として「支援と心の回復」に焦点をあてて、保健施策の可能性を探りたいと思います。

 

  • 「リスクは何?」より「ニーズは何?」へ

イギリス政府は虐待対策のガイドラインを「ワーキング・ツギャザー」として、この家族のリスクは何?という捉え方ではなく、この子どものニーズは何?家族のニーズは何?という捉え方をするそうです。そしてそのニーズのために全ての機関が子どもと親のために協働、子どもを第一に、そのために親とパートナーシップをとるそうです。

 

昨日の長野議員の質問にあった、多胎児をもつ親が一人の子を死なせてしまった例は、この家庭のニーズは何?という視点で支援が行き届いていたら、回避できた事例かもしれません。

 

区内の児童養護施設で聞いた話しでは、施設にいる子どもは虐待を受けても親にあいたがる。せっかく心のケアをしているのに、会わない方がよいのに、と思っても夏休みなどに会いに行き、また心に大きな傷を受けて帰ってくる、というのです。子どもは虐待をされても親が好きで、親を求めます。もちろん子どもの願いは、虐待をしない親になってほしいということです。

 

  • 親への更生プログラムにこそ力を!

カナダでは子どもが保護されたら親は更生プログラムを受けなくてはならず、親自身の問題が解消されて回復したら、家族統合が図られます。はじめはちゃんと家族の機能がはたされているかどうか、サポーターが見に来るそうです。

 

当初は、虐待対策として、強制分離という法制度を整備したものの、今は、その限界を知り、心の回復と家族の再統合、虐待の未然予防に舵をきり、成果をだしてきている国が増えていると聞いています。日本においても今の「親子分離」だけでは、根本的な解決にはなりません。一時保護所はつくればつくるだけ、いっぱいになってしまいます。

 

こういう考え方があります。現状は、虐待を受けた子どもが一時保護所に保護されますが、地域や友だちを離れて隔離され、施設措置になれば、ずっと自由を奪われます。一方、虐待をした親にはペナルチィーがあるでしょうか。むしろ一時保護所には虐待をする親に入ってもらって、改善プログラムを受けてもらう。その間、子どもは地域で親代わりになってくれる人がサポートをしながら待っている。家族の再統合をめざすというものです。

 

  • 保健施策による虐待未然防止の可能性・対人スキルによる「エンパワメント」

精神保健・母子保健など科学的な心理分析に基づいて構築されている社会医療分野、保健施策が「心の問題」に積極的にアプローチして、児童虐待の未然予防と家族の回復に力を発揮していくことが必要ではないでしょうか。

 

さて、児童虐待は健康医療上の深刻な被害をもたらす重要課題です。保健施策として赤ちゃん訪問、乳幼児検診などの様々な制度が整えられてきており、保護者のメンタルなど養育能力や子どもの発達状況から虐待リスクを見つけ、産前産後ケアなど、子育て支援施策につなげ、虐待予防を図ってきています。

 

集団を対象とする制度の他に助産師や保健師たちが、現場で子育て不安を抱えた人、悩みを持つ人に寄り添い、個別に関わる場面での対話力、親たちをエンパワメントする事例からは保健師が虐待予防の最前線にいる、重要な担い手であることがわかります。エンパワメントとは、内的力の回復とか、元々備わっている力が発揮されるという意味で使いますが、大田区の赤ちゃん訪問におけるある助産師のことばを紹介します。

 

知人は年子の乳幼児を育てていましたが、生れたばかりの下の子の世話で手一杯。1歳の上の子どもの世話が十分にできずに、ファミリーサポートに預けたかったけれど、預けるための面接にいく余裕もなくて、くたくたボロボロの日々だったそうです。そこに赤ちゃん訪問の助産師が来たわけですが、彼女はその助産師に泣きながらどんなに毎日大変かを話し、自分はとてもだめな母親だと訴えたそうです。助産師は熱心に話を聴いてくれたあとで、二人の兄弟に目をやって、その小さな子どもたちの爪をさして、子どもたちに話しかけたそうです。「きれいにしてもらっているわね、いいお母さんね、あなたたちは幸せよ」と。

彼女はそれを聞いて今度はうれしくて泣いたそうですが、彼女にとってその言葉はそれからの子育ての支えとなり、一生の宝物だそうです。

 

子育ての大変さは変わらないでしょうが、「きっと私はだいじょうぶ」と自信を得て、乗り越える力をもらえたのだと思います。内なるパワーが生れた、これこそエンパワメントではないかと思います。

 

赤ちゃんを育てることは、体力的にも心理的にも、手助けをしてくれる人がいなければ本当に大変なことです。「なぜ泣き止まないだろう」「なぜ食べてくれないんだろう」そういった不安が強くなって、産後すぐにうつになったり、疲労とイライラで、感情がコントロールできなくなって虐待をしてしまうことがあるかもしれません。虐待の事件を知って、「人ごととは思えない」という母親たちの言葉をよく耳にします。

 

孤独な中で、新生児や乳幼児を育てる親に個別に直接関わる助産師や保健師という専門職の役割がいかに重要かと認識します。助産師の態度、言葉かけが実は、産後うつや虐待の予防になっているにちがいありません。母親の不安やストレスを受けとめることから出発して、その信頼感から必要なときに助けを求めることにつながるのでしょう。

 

1,お聞きします。

助産師や保健師は妊婦面接や赤ちゃん訪問など、個別に直接子育て親子に関わる業務が多いと認識しています。2021年度予算では妊婦面接、新生児訪問で1億3千万円か計上されています。

 

専門的な母子保健に関する知識の他に高度な対人スキルや人間的な感性で親たちを励ましてきていると考えます。職員の育成は非常に重要だと考えますが、その技術はどのように引き継がれ、共有されていますか。職員育成についての課題にはどんなものがありますか。

 

最も有効な支援は、その支援によって、親がエンパワメントされることではないかと教えられる事例です。

 

さきほどの助産師の対応で、私が感動したのは、暗に母親を褒めただけではなく、赤ちゃんに話しかけたところです。赤ちゃんへのまっすぐな語りかけは、子どもを一人の人格として尊重するという姿勢を母親に見せているかのようです。すばらしい助産師、保健師を持つ大田区に私も誇らしくなりました。

 

  • 子どもは権利の主体

2016年の児童福祉法改正では、子どもの権利について明記されました。これまでは子どもは保護される対象という表現でしたが、今度は「権利の主体」です。第1条には、「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること、その他の福祉を等しく保障される権利を有する。そして第2章では児童の最善の利益が優先して考慮されるように、と明記されました。

 

人権という権利は、私たちが人間として尊厳をもって、自己実現していく、そして自分らしく生きていくために不可欠なものですから、親と子だからといって、隷属関係、支配関係を戒めるものです。

 

  • 親による体罰も禁止

また2019年には親による体罰禁止を明記した改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が可決、成立しました。しつけの一環であっても体罰を加えることは禁止となったのです。

虐待は子どもの心身への深刻な影響が懸念されます。暴力はもちろん、無視や暴言など心理的虐待を含めて、虐待は脳の萎縮、神経系統へのダメージがあることは科学的にも解明されているところです。

 

しかし日本においては、家父長制の名残があるせいか、子どもは親に従えという文化が深く根付いています。結果、叩いたり、怒鳴ったりすることもしつけの一環だと捉えたり、教育虐待と言われますが、親の価値観を押しつけて、子どもに過度な圧力をかけることもあります。子どもと大人とのよい関係を築いていくためにも法についての知識と意味を大人自身が学ぶ必要があります。

 

2018年に実施された「子ども・子育て支援事業計画策定に向けたアンケート調査」によると、子どもを激しくたたいたり、怒鳴ったりすることがあると応えた保護者が就学前で約4割、小学生で約5割です。体罰という形の虐待はごく身近な問題だといえます。

 

2,お聞きします。

子どもへの親の対応に関するこれらの法改正を受けて、公明党の岡元議員の提案にもありましたが、母子手帳、また父子手帳、子育てハンドブックに「親権者の責任」「虐待の定義」「子どもの人権」の3点を明示することを希望しますがいかがですか。また読んだだけや聞いただけで理解できるとはかぎりません。体罰によらないしつけのこつがわかる、体験的な学習はできませんか。

 

  • 子育ての悩みを共感してくれる仲間の存在の重要性

子育ての大変さは子どもがなかなか大人の思うようにはならないということです。当たり前のことですが、会社生活に慣れていた人は効率的に仕事をこなす習慣がついているので、計画通りにことが運ばないとイライラして爆発してしまうことがあるでしょう。再婚して、新しいパパに子どもがなかなかなつかないことがあります。そればかりか、子どもはこの人は信頼できる人かどうかとわざと困らせたり、試し行動をするので、それに逆上した父親が虐待に走ることもあるのです。子どもとはそういうもので、だれしも苦労しながら育てているのだと、共感しあえる仲間がいたり、共感的に聞いてくれる保健師がいることも虐待予防になるでしょう。

 

虐待のリスクについては、親自身が虐待を受けてきた、愛着形成の不全、それに加えて生活上のストレス、孤立、子育てのやり方がわからないことなども主な要因と言われています。

 

ある母親が、自分は叩かれて育ち、しかもほおっておかれて育ったので、自分の子育てでも叩くことに、まったく抵抗がなかったし、ほおっておいてもよいかと思った、しかも子どもが人からかわいいと褒められると、子どもに嫉妬してしまい、かわいがれなくなるというのでした。

 

幸い、彼女は自分とは違う子育ての仕方をしている友人に触発されたこと、信頼のできるその友人に話を聴いてもらった、傾聴してもらったことで、自分の子どもの頃の寂しかった経験を受け止めることができて、自分の心を客観視でき、子どもに新たな気持ちで向き合うことができるようになったそうです。子どもにこれまで叩いていたことを謝って、子どもの求めに応じる心を持つことができるようになったそうです。人は育った環境に影響されるので、彼女が子育ての半ばで、子どもとの関係を改善させることができたのは、子どものこれからの成長発達を考えると本当によかったと思います。

  • 人をエンパワメントする「傾聴力」

傾聴とは、相手の話を共感的に、肯定的に、評価はせず、真摯に聴くということですが、そのように話を聴いてもらえると、気持ちが楽になり、ストレスが解消したり、承認欲求が満たされて自己肯定感が高まります。自分の状況を客観的に見ることができて、心を整理できて、次の一歩をふみだす勇気が湧くなど、大きな効果をもたらします。また傾聴を学ぶことは、自分を冷静に振り返ったり、親子関係や夫婦関係をよくする、お互いを尊重し合える関係作りへの訓練ともなります。不登校やひきこもり等、課題のある親子関係においてもとても大切な関わり方の指針となります。

 

日本の殺人発生件数は年々減少していますが、親族殺人は増え続けており、全体の半分以上が親族殺人です。世界的にも日本の親族殺人の多さは異常のようです。家族であっても相手の尊厳を傷つける言動がいつしか恨みになってしまうのかもしれません。

 

3,お聞きします。

親が傾聴力を持つことで、よい親子関係の構築と子どもの自己肯定感の育ちにつながります。また夫婦関係や親自身の心の問題の解決にも非常に有効で、安定した子育てにつながると考えられます。母親学級、両親学級、また出産後に親たちに傾聴を学ぶ機会を提供することはできませんか。予算では両親学級が948万4000円で3日制は38回、1日制が50回です。

 

地域の中でも傾聴力は、日頃のなにげない会話から、子育て家庭をエンパワメントすることができ、また近隣で出会う子どもから話を聴くことができるかもしれません。子どもの変化に気が付いたり、子どものSOSに気が付くことができて、虐待の未然防止や地域保健の向上につながります。

 

4,お聞きします。

この2月に国では、孤独・孤立対策担当室が設置されたほど、孤独が人の健康をはじめ、様々な社会問題の背景になっていることがわかってきています。自分のことをわかってくれる人、しっかり話を聴いてくれる人に出会うと勇気づけられ、うれしいものです。地域の中の「傾聴力」は地域を支える力にもなり、また虐待防止にもつながります。

傾聴の技術を取得する講座を開催して、多くの人が地域で、人の話を上手に聴くことができるように、うながすことを提案しますが、いかがですか。

 

  • トラウマやフラッシュバックの治療へのアクセス

しかし、傾聴だけでは手に負えない、子どものころに受けた虐待でうつや精神疾患を抱えた人、深刻なトラウマやフラッシュバックに苦しむ人もいます。虐待をする親の中には高い確率で、子どもの頃の被虐待経験を持つ人がいるということは、よく知られていることですが、そのことを考えても早期の治療が必要です。

 

5,おききします。精神保健福祉相談では、依存症相談はありますが、トラウマやフラッシュバックに苦しむ人の相談は受けますか。もしそういう窓口がないのであれば、開設をして、ひろく周知すること希望しますがいかがですか。

  • 社会的養護下の子どもへの心のケア

さて社会的養護のもとにある子どもたちの心のケアについて考えたいと思います。

野呂議員の代表質問にあったように、現状、東京都の一時保護所では、厳しい管理的な体質が報告されています。今度開設される大田区の一時保護所の運営方針について尋ねたところ、区長は「子どもの権利擁護を第一に考えた大田区ならではの施設整備や支援を考えている」という答弁をされました。多くは家庭での虐待から逃れてきている子どもたちです。最善の利益が守られることを期待するものです。

 

昨年、品川児童相談所に保護された子どもは239人で、そのうち大田区の子どもは169人です。多くの場合、一時保護所を経て、次に児童養護施設等の施設、あるいは里親のもとに措置され、児童相談所は連携を取っていきます。子どもたちがその後、どう成長していくのか、保護することは子どもの人生に大きな影響を及ぼすことでもありますので、私たちは無関心ではいられません。

 

6,お聞きします。

児童相談所で一時保護所に保護された子どもが、その後、児童養護施設等に入所した場合、子どもたちはどのように支援されますか。

 

  • 施設内虐待への対策を

多くの施設では子どもに寄り添って、情熱をもって子どもの成長を助けていますが、残念ながら施設にも格差があり、残念ながら施設内虐待が後を絶たず、2008年には児童福祉法に施設内虐待の防止が明記され、また施設内虐待等について届出や通告があった場合は、それを受けて調査する制度も法定化されました。厚生労働省では、届出等の状況と都道府県市が対応した結果について、毎年度とりまとめて公表しています。

被措置児童等虐待届出等制度の実施状況について、というサイトをみるとたとえば、

平成30年度の届出受理件数は246件でした。

虐待の内容は、

具体的には身体的暴力として

・他児をからかった複数の児童に対して、モップを足に挟ませて15分程度正座させた。

・注意に反発する児童による暴力や暴言に対し、職員が児童に馬乗りになり右腕を複数回強く叩き返した。

性的虐待としては

・施設内の個室等で、児童にキスをするなどの行為を繰り返していた。 ・夜勤時に夜遅くまで児童の悩みを聞いているうちに性的関係に至り、その後は夜勤の度に施設内の休憩室等で性行為に及んでいた。 ・児童と性的な関係を持ち、服を着ていない写真をデジカメ等で撮影した。

 

心理的虐待では、児童に対し、日常的に無視や自尊心を傷つけるような言動をくりかえした。

など多数、報告されています。これらはほんの一部ですが、驚くばかりの虐待です。

 

残念ながら、乳児院でも里親のもとでも虐待の報告があります。

 

昨年12月に埼玉県の児童養護施設を告発した22歳の青年のことがNHKのweb newsで取り上げられていました。かれは生後すぐに乳児院に入れられ、続いて、児童養護施設と、子ども時代の全てを施設で過ごした青年です。彼の話によると、この施設では、なぐるけるは当たり前で、叱られたときの仕打ちがモップの柄を足に挟まれて正座を数時間させられるそうです。痛さで泣き叫ぶ子どももいるほどで、しばらくは歩けなくなるそうです。また週に一度は、食事がカップラーメンだけの時や、何かの罰で、食事が与えられないときもあり、空腹が辛かったと話していました。

 

施設退所の折り、「もらしたら、ただじゃすまないぞ」と脅されたそうですが、今でもその施設で暮らす仲間を思って、思いきって彼は実名で、告発に踏み切ったそうです。モップをはさんで正座をさせた虐待に関しては事実を認めた施設ですが、あとのことは調査中だとの報道でした。

 

被虐待児が社会的養護の下で、再び虐待されれば、社会への信頼感を失い、無気力になるほか、深刻な精神病に陥るなど、その後の人生に大きなハンデを負う恐れが高まり、絶対に起こってはならないことです。

 

7,お聞きします。

学校で教師による暴力が行われたら、保護者がだまっていません。しかし、社会的養護の下では、子どもたちの保護者に養育能力がなかったり、あるいは両親がいないなど、だれも守ってくれない可能性があります。また子ども自身で十分に説明することや立証することはさらに難しいことです。

子どもの意見表明権を守るためには、子どもの意見を代弁する大人が必要だと考えます。自分の代わりに代理人が表明するアドボカシー制度の導入や第3者委員会の提言にあるように子ども一人一人に代理人、弁護士をつけることが有効だと考えますが、いかがですか。 

また心理的ケアが効果的に行われているかどうか、検証する仕組みはつくりますか。

 

  • 退所後の青年への支援を!

退所後の支援への取組みも重要な課題です。

 

会派で、児童養護施設を退所した当事者の話を聴きました。彼女は18歳での退所後、ブラック企業で働き、残業代も払われない過重労働に耐えきれず辞めましたが、相談場所がわからなかったこと、携帯を契約するにも、家を借りるにも、腹膜炎を起して緊急手術をしなければならないときも、保証人がいなくて、大変困ったそうです。多くの施設退所の若者は社会経験が圧倒的に不足している中で、自分に自信が持てず、孤独で、社会から見捨てられたという思いと、子どもの頃の虐待のトラウマが解消されないままで、重い精神疾患に苦しめられている場合も少なくないそうです。

 

「大田区における3歳女児死亡事例検証報告書に対する外部有識者による付帯意見」には、「本事例の母親は児童養護施設を退所した後に上京し、子どもを養育していたとされている。児童養護施設を巣立った若者は、生活や人間関係に悩みを抱えても頼る人が身近におらず、孤立していることが多いのが実情である。こうした若者が伴走してもらいながら困難を解決していく支援が求められる。児童養護施設を退所した若者が一人で困難を抱え込まなくてもよい社会を創り出すために、大田区としての取組みを期待したい。」とあります。

 

人権を守るという堅い決意のもと、被虐待児、社会的養護下の子どもたち、退所後の青年たちが、もう一度、「自分は大切な人間なんだ」と思えるように、一人一人が回復に向かって、エンパワメントを図れるためのサポートをしていく必要があります。「だれひとりとりのこさない」をただのお題目にせず、全ての子どもの可能性が妨げられることがないようにしなければなりません。

 

  • 人間関係にある支配構造を絶つ! 人権教育を含んだ包括的性教育を

虐待の背景には、人間関係にある支配構造、男は女を、親は子を、上司は部下を支配するという、力によるコントロールの構造があるので、人はだれしも平等・対等であり、一人一人が尊重されるべき存在であるという人権意識を社会全体で確認していくことが必要です。

 

日本は特に東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗・元内閣総理大臣の「女性蔑視」発言に見るようにジェンダー平等の意識が低いので、心してその意識を替えていくための教育が必要です。第3回定例会でも提案しましたが、中学校におけるデートDV教育など、同意なくしての性行為は許されないことなどの人権教育、また小学校では体験な人権教育や暴力から身を守るCAPのプログラムにもぜひ取組んでいただきたいと考えます。

保健師が学校に出向いて、生命について話したり、乳幼児親子に協力してもらい、子どもの誕生の喜びを保護者に語ってもらうことなど保健部局と教育委員会が連携して、発達に応じた体系的なプログラムを創ることが大切だと考えます。

 

8,お聞きします。

義務教育のできるだけ早いうちに、虐待の定義、子どもの権利、助けを求める窓口を明確に知らせる必要があります。また人権教育を含んだ包括的性教育も必須だと考えますが、どのように取組みますか。

 

児童虐待は増え続け、2019年度は19万3780件にのぼり、過去最多を更新しました。子どもの未来を奪う虐待を全力でなくさなければなりません。

 

児童相談所ができれば解決するわけではなく、子どもが保護されてそれでおしまいではありません。人の健康は何によって保持されるのか、傷ついた心はどのように回復するのかを追究することが虐待の未然防止になると確信します。

 

傾聴の力、子どものニーズを知って応えていくこと、親子が楽しめる公園作り、人との出会いをうながす居場所つくり、人がエンパワメントされる、そのような地域作りの仕掛けを行政が行うことが地域保健ともなるのではないでしょうか。大田区自身の「傾聴力」を期待するものです。子どもの声に耳をすませ、健康な地域作りに邁進していただきたいと願います。

 

持続可能な開発目標、SDGsの推進を図るべく、その要素を「新おおた重点プログラム」に取り入れましたが、特に、3の「全ての人に健康と福祉を」、5の「ジェンダー平等を実現しよう」が実現することを願って、虐待の発生予防に保健の本領が発揮されることを願います。そして「子どもの権利を守る」という私たち大人の宣言としても大田区独自の“子どもの権利条例”がつくられることを願って質問を終わります。

 

【参考文献】

・子どもと暴力  森田ゆり  岩波書店

・虐待・親にもケアをー生きる力をとりもどすMY TREEプログラム  森田ゆり  築地書館

・新・子どもの虐待―生きる力が侵されるとき   森田ゆり  岩波ブックレット

・エンパワメントと人権 こころの力のみなもとへ  森田ゆり  開放出版社

・こども虐待はなくせる 当事者の声で変えていこう  今一生  日本評論社

・児童虐待 ―現場からの提言  川崎二三彦 岩波新書

・第3回日本公衆衛生看護学会学術集会・教育講演

「公衆衛生看護における母子保健の最前線―子ども虐待予防に向けた保健師活動への期待―」

日本子ども虐待防止学会・理事長 子どもの虹情報センター・顧問 小林美智子

(日本公衆衛生学会誌 JJPHN vol.4 No.2 201