児童相談所一時保護所は子どもが安心できる場所になっているか 経験者の声を聴く
一時保護所は児童相談所に併設されていることが多く、3歳から18歳までの虐待を受けた子ども、非行に関わった子ども等を緊急的に保護し、行動観察や生活指導を行う場所です。
近年の児童虐待の増加により、都内の一時保護所は常に定員超過になっており、結果、一人の職員の抱えるケースは膨大になり、過重労働が問題とされています。また行き先が決まらず、保護の長期化、過密化も大きな問題です。虐待を受けるなどすでにストレスを抱え、不安定な子どもたちにとって一時保護所がどういう環境であるのか、実態を知る必要があります。よりよい児童相談所の運営、一時保護所の在り方に活かさなければなりません。「第三者委員の意見書」と「経験者の声」から検証したいと思います。
【第三者委員の意見書より】
2019年に児童相談所第三者委員が東京都児童相談所一時保護所へ改善を求める意見書を出しています。
https://drive.google.com/file/d/1KMpYbotqSnm_OiLG2mGZebETnJ58KPD7/view
これによると多くの一時保護所では「管理」に重きが置かれ、私語の禁止、目を合わすことも禁じられるなど厳しいルールで子どもたちの行動を縛っていることが問題として指摘されています。一時保護所の子どもたちからの聞き取りでは、職員の高圧的で乱暴な言葉「静かにしろよ!」「ダメなやつだな!」「また個別に行かせるからね」「口だけの反省はいらない」「よくもまあそんな態度がとれるね」、また一時保護所について象徴的な子どもの言葉「閉じ込められて、外に出られず、外の様子もわからず、親や友だちとも連絡がとれず、学校も行けず、家族とも会えず、見通しも不明なまま、知らない大人に早く寝ろ、早く起きろと叱られ、自分の物ではない服を着て過ごし、そのような状態で何ヶ月もいるのは、頭がおかしくなりそう」などが報告され、委員は、過剰な規制や人権侵害にあたる対応を不適切であると指摘しています。
【経験者の生の声】
昨年末、エールおおた区議団では、家庭での虐待が理由で6歳から数回、一時保護所への保護を経験し、児童養護施設への措置、そこで18歳まで育ったある女性の話を聴く機会を持ちました。14年前のにわかには信じられないような過酷な一時保護所の様子でしたが、上記の「意見書」にもあるような管理的な環境は一時保護所の悪しき文化として引き継がれてきているのかもしれません。報告します。
Yさんの話から
・先行きが見えない、説明も同意もない
姉妹で一緒に入所したが、すぐに他の姉妹はいなくなった。職員に「どこに行ったの?」と聞くと「今はいえないな」との答え。それからもずっと教えてもらえない。児童養護施設に移るときも、「荷物まとめてね」といわれただけで、行き先も何も教えてもらえないまま、すぐに連れて行かれた。仲良くなった友だちに「バイバイ」もできなかった。
・持ち物のこと
持ち物は全て没収されて、戻ってこなかった。服も下着もすべて、児童相談所のものをあてがわれた。女子用のものが足りなくて、男子用のブリーフをはかされたので、「いやだ」というと叱られた。
・強制検査
体に暴行の跡がないかどうかの検査をするとのことで、少女たちは数人一緒に裸にされて、触られたり、寝かされて写真をとられた。みんないやがったが、強制的だった。
・厳しいルール
おしゃべりしてはいけない。目を合せてもいけない。夏も冬も靴下をはかなければならない。嫌いな物も残してならない。
・いじめの横行
課題のプリントをしていると別の子どもにビリビリに破られる。破った子どもが職員に「あいつビリビリに破っているよ」と言いつける。職員からは厳しく叱責される。頭の回る子どもや力のある子どもが弱い子どもをターゲットにいじめる。
・放置や見せしめ
子どもが泣きわめいても、職員は放置している。あばれた子どもが何かを床にこぼしたりすると掃除をさせる。まるで、見せしめのように。
・社会との隔絶
学校に行けない、年齢に合った勉強ができない、外でほとんど遊べない。
・暴力
男性職員が風呂の世話をすると称して、体を触ってくる。
・注射
泣き叫んだとき、そのたびに、注射を打たれた。その後、まっすぐ立てなくなり、夢心地になった。
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彼女が大人になってから振り返った一時保護所は、「子どもたちの行き場のない怒りへのケアがないまま、癒やしも楽しみもない場所」とのことでした。
一時保護所は子どもにとって、安全で安心感を得られる場所であるべきです。子どもの心に寄り添う職員ももちろんいることでしょう。しかし子どもにケアを施せないほど、余裕のない労働環境だとしたら、そこからまず改善が求められます。
2016年の改正児童福祉法によって、特別区でも児童相談所を開設できることになりました。先行して児童相談所を開設した世田谷区では、子どもの人権を守る仕組みとして一時保護所の中に子どもが直接「子どもオンブズパーソン・せたホッと」※に声を届けることのできるポストを設けています。
※子どもオンブズパーソン制度「せたホッと」
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kodomo/009/003/003/d00126031.html
子どもの権利を守るためには子どもの意見をきちんと聴くシステムが必要です。
大田区でも児童相談所設置の準備が始められていますが、子どもの権利擁護の仕組みについて研究しつつ、子どもの最善の利益の保障を求めていきます。
参考:文春新書「告発 児童相談所が子供を殺す」山脇由貴子
Every特集、一時保護所の実態
https://www.youtube.com/watch?v=TidgESrkyLk