特別養子縁組制度の推進を中心に ー大田区議会報告
0歳児への虐待数がトップ。
望まない妊娠による不安や絶望への支援の手の必要性
第4回大田区議会定例会(11月29日~12月8日)がおわりました。今回は最も虐待死の多い0歳児をどう救えばよいか考え、一般質問に臨みました。背景に潜んでいる「望まない妊娠」「貧困」の実態を調べることから始めました。中心的な資料と質問全文をご報告いたします。
虐待をなくし、予期せぬ妊娠による不安や絶望を救うために。
特別養子縁組の推進に向けて
大田区は児童相談所設置の準備にとりかかっていますが、私たちは、いうまでもなく児童虐待をなんとかなくしたい、予防したいと考えます。
厚生労働省の出した「子ども虐待による死亡事例等の検証結果の第13次報告」によると、平成27年の虐待死は84人、このうち、心中以外の虐待死は0歳が57.7%と最も多く、さらに月齢4か月未満児が約60%をしめています。
加害者は実の母親であることが最も多く、またそのほとんどが母子手帳未交付、妊婦健診未受診です。母親の抱える問題として「望まない妊娠、予期しない妊娠、」が高い割合を占めています。
妊娠の悩み相談・支援活動をしている「妊娠SOS相談」の報告によるとその背景には、貧困、家庭内の複雑な事情、性暴力の被害、近年では出会い系サイト、およびコミュニティサイトに起因する性被害が増えているそうです。また性産業従事、精神疾患、社会からの孤立などの問題がからみあっているといいます。
大田区では産科に緊急搬送された未受診妊婦の連絡を受けると入院中から保健師と子ども家庭支援センターが関わり、母子手帳を交付し、特定妊婦と位置づけ、その後のことをいっしょに考えていく体制を作っています。大田区が把握した未受診妊婦は平成25年度が1人、26年度は2人、27年度は5人、28年度は6人で15歳、16歳の女性も含まれています。28年度の例でいうと母子家庭において高校生が風呂で出産、妊娠には母親は気がついていなかった例、出産費用がかかるからと自宅で3人目を生んだ例があります。産科との関わりを持たずにどこかで産んでしまっている場合は把握ができていません。
どこにも相談することができず、追い込まれ、絶望的になる女性の存在やその背景について想像する必要があります。妊産婦の自殺率は同世代の一般女性の約3分の2、妊娠2か月での自殺が突出して高いことが総合母子保健センター愛育病院の報告にはあります。早い時期からの支援体制が必要です。
特別養子縁組制度は、1988年「子どもの利益のため」に民法に追加された制度です。家庭裁判所の審判により、法律上、実の親子同様の関係を作ることができ、戸籍上の表記も実子と同じように「子」「長男」「長女」と記され、産みの親の親権は停止、親権は養い親、養親に移ります。一方、普通養子縁組や里親制度では、親権は産みの親に残ります。
愛知県の児童相談所は30年余りの間、育てることのできない人に代わって、親になりたいという意志のある人が、「性別も問わない、病気や障害の可能性があっても親になる気持ちは変わらない」という厳しい条件のもと、赤ちゃんの親になる特別養子縁組、いわゆる赤ちゃん縁組を取り持ってきています。
たとえば、こういう事例をお聞きしました。たった1回の暴力で、予期しない妊娠に至った高校生。両親にも打ち明けられずに一人苦しみ続け、自殺をはかるつもりで遺書まで書いていたそうです。母親がいつもと様子の違う娘に気が付き自殺は阻止できましたが、発見が遅く、もう妊娠7カ月過ぎ。母親は愛知県の児童相談所のことを新聞で知り、連絡をとり、「生まれてくる赤ちゃんを幸せに育ててくれる方を紹介してほしい。被害者である高校生の娘は、とても子どもを育てることはできない」と相談したそうです。
児童相談所の職員は、長年不妊治療をしても子どもに恵まれずぜひ子どもを授かりたいという方と連絡を取り、双方の橋渡しをしました。このときの児童福祉司は高校生に「予期せぬ妊娠は大変だったけれど、赤ちゃんを授かりたいと願っている夫婦のためにコウノトリの役をしてあげるのだと考えよう」と声をかけたそうです。高校生は、家から遠く離れた産院で無事出産、養親との交流の後、赤ちゃんを託しました。高校生は無事、学生生活に戻ることができ、自分がコウノトリになれたこと、赤ちゃんにはとてもいいお父さんとお母さんができたことを喜び、将来は福祉の道にという希望も抱いたそうです。
特別養子縁組制度は、赤ちゃんの命を救うばかりか、実親も養親もみな幸せになれる「三者共に良し」の制度といえます。子どもが成長するために最も大事なのは、生後すぐから一貫して子どもを愛し、育む保護者であり、親と子が愛着の絆を結ぶことです。欧米では社会的養護はパーマネンシーケア(恒久的な家庭での養育)が最優先とされ、国の児童福祉施策の主軸といわれています。しかし日本においてはほとんどの児童相談所では、育てられない子どもは産院から直接乳児院への措置が多い実態があります。愛情渇望や愛着障害、また望まない出産ゆえに虐待を受けてしまってから、乳児院に送られた場合などは、人格形成や発育に悪影響を及ぼす可能性が高く、後に養育里親に託してもその心の問題が、「赤ちゃん返り」や激しい「試し行動」となり、里親はその任に耐えられず、不調に至ることも少なくないのです。
子どものための福祉行政は、愛着障害についての視点に目を向け新生児期からの特別養子縁組制度の活用により、子どもにとって最善の養育環境を考えるべきです。そのためには民間団体との連携、里親開拓とフォローアップ体制を充実する必要があります。
【1】お聞きします。
東京都の児童相談所では、育てられない子どもはほとんどの場合、乳児院に措置され、3歳になったら児童養護施設に移されるという道筋を進みます。養育里親に委託するとしても早くて4,5カ月の後が普通だとのこと、重要な新生児期の養育環境として問題を感じざるを得ません。相談窓口を設置して妊娠中からの支援、特別養子縁組制度の情報提供とあっせんなどサポート体制を構築するべきだと考えます。今はまだ児童相談所がないので、こども家庭支援センターがその役割を果たしながら、児相設置に向けての研究と準備をすることはできないでしょうか。
赤ちゃんを匿名で預け入れる国内唯一の施設「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)には、運用開始から10年、2015年までの9年間に全国から125人の命が託されました。市の検証によるとそのうち、約半数が自宅で生んでおり、医療施設以外での出産理由を「経済的理由で病院を受診しなかった」とあるそうです。母親の年齢では20代が36%ともっとも多かったそうです。中絶費用がない、また未成年者の場合は保護者の同意がないと中絶手術が受けられないので、複雑な家庭環境や虐待のある家庭などで保護者に相談ができず生まざるを得なくなるということもあるでしょう。
社会全体の格差と貧困の拡大はこの2~30年間に確実に進んでいますが、パートや派遣で働く非正規労働者が全労働者の4割で、低賃金、無貯金、不安定雇用は生活を圧迫しています。たとえば東京の場合、最低賃金でフルタイムで働いた場合、月収は15万円、手取り12万円です。平成27年度の可処分所得の中央値が245万円。母子家庭の平均年間就労収入は180万円です。しかも妊娠期あるいは出産後に一時的に働けなくなる期間は、その間のパート収入が減り、家計に大きな影響を及ぼすという問題もあります。
お聞きします。
【2】実母の抱える問題として、「妊婦健診未受診」があります。非課税世帯や生活保護受給者ではなくても、生活が困窮している場合、妊娠判定のための産婦人科初回受診料の自費8千円から9千円の負担はかなり厳しいのです。大田区の場合は、医療機関で受診をして妊娠証明をもらわないと母子手帳の交付が受けられず、母子手帳と同時に配られる妊婦健康診査補助券14回分がもらえないので、その後の健診に行けなくなることが容易に考えられます。未受診妊婦をなくすためには初回受診料の無料化が必要だと考えますがいかがですか。
またこれは全ての母親に対してですが、手助けしてくれる人のいない中での一人での乳幼児の子育ては困難で、虐待に結びつくこともあるのです。出産時に赤ちゃんグッズをもらえる「かるがも」という制度がありますが、赤ちゃんグッズ限定ではなく、家事援助サービス券も選べるようにはできないでしょうか。
出産費用は50万円から80万円かかる中で、健康保険加入者には、出産一時金42万円の補助がありますが、やはり自己負担分もかなりなものです。経済的な厳しさはストレスの増大にもなります。もっとも精神の不安定な時期です。命の誕生に際しての母親を支える行政支援が必要だと考えます。
日本では報告されているだけで年間約18万件の中絶があり、年間の出生数98万人に比較しても、大きな数字と言えます。大田区の20歳未満の人工中絶の件数は、平成26年35件、27年54件、28年は59件と増えています。この中には経済的な理由で「本当は生みたかった、でも産めなかった」ということもあるのではないでしょうか。
【3】危機的状況の人への支援の情報提供の在り方についてお聞きします。
望まない妊娠で苦しむ女性が、助けを求める場所をすぐに思い浮かべることができるでしょうか。どんな案件であっても相談にのり、継続して寄り添い、産めないのであれば、医療機関につなぎ、産む場合は、母子共に安全に出産し、その後の生活を一緒に考え、その人にとって最善の社会資源に結びつけることができるように、支援の手を差し伸べてくれる機関との出会いが必要です。年中無休で夜間も対応する「にんしんSOS東京」、また大田区保健所や子ども家庭支援センターなど、連絡先がわかるようなカードを手にとりやすい場所に、たとえばコンビニ、ファーストフード店、ネットカフェ、ゲームセンター、などに協力をしていただき、おいてもらうことはできないでしょうか。
また性被害の直後であれば、警察か性暴力被害支援センターなどワンストップの窓口に相談し、救急医療を受ける、という情報を得ておくことが必要です。
先に例を出した愛知県児童相談センターでは、この30年間に173組の親子を結びつけてきたそうです。仕組みも充実させてきています。出産前からの養親への引継ぎを丁寧にサポートするほか、里親さんが外出などで子どもの養育ができないときや、養育に疲れ休息が必要なときなど、子どもを施設や他の里親さんに一時的に預かってもらう「レスパイト・ケア」、また各児童相談センターには、里親さんご自身の体調不良時など、子育てや家事の助っ人をお願いできる 里親ヘルパーが登録されています。毎月、児童相談センターごとに里親サロンが開催され、里親さん同士の交流、研修会、職員や周囲の福祉関係者をつなぐ場にもなっているそうです。
虐待の厳しい現実に直面している児童相談所の職員が、またその職域でできる最大限の力を出して、幸せな家庭を創り出すお手伝いをしているということに敬意を感じるものです。
虐待の問題は社会の問題を映し出しているといえます。抜本的な貧困対策を目指しながら、虐待の連鎖を一つずつ止めていくためにも母子支援を強化し、子どもの最善の利益を追求する大田区の福祉行政でありたいと思います。
●資料データ1
0歳児への虐待数がトップ。
子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13次報告)厚生労働省他
●資料2
日本の貧困
NPO法人自立支援生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さんの講演から
2017・11・12(消費者生活センターにて)
●参考資料
「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命 (光文社新書)