高齢者の住まい方の工夫 母の家
実家、埼玉県狭山市、一人暮らしの84歳になる母の家です。30坪に満たない建売住宅は子ども3人を巣立たせた後、老朽化も激しかったので母のアイデアを取り入れて20年ほど前に建て替えられたのでした。15年前に父が亡くなった後は一人暮らしです。
●1階のリビングで寝て起きて食事
1階のリビングはその部屋だけで全て用が足りるように、キッチンとベッド、トイレ、子どもや孫たちが来ても囲める大きなテーブルがあります。キッチンには作り付けの食器棚や食品庫、入口近くにはクローゼットがあります。玄関が近いので、介護保険によるヘルパーさんやケアマネージャーの方がいらしたときに出迎えるのにも病院に出かける時もでやすい作りになっています。お風呂だけはリビング内には収められなかったことを母は残念がっています。
リビングにはキッチンとベッドと大きなテーブルがある
●天袋のない押入れ
2階の和室は巣立った子どもたちがいつでも帰ってこられるようにと、泊まれる部屋になっています。押入れは布団の出し入れがしやすいように広い空間にし、なんと天袋をなくしています。大工さんが“なげし”が回っていないとおかしい、と反対したそうですが、天袋は物が取り出しにくいし、年を取ると足台に乗るのは危ないと大工さんを説得して斬新な(?)な押し入れにしてもらったのでした。“しきたり”より“合理的であること”を大事にする母らしいアイデアです。実際、布団の出し入れはとてもしやすいです。
天袋のない押入れ
●ベッドから見える花と緑
母は植物を育てることが好きで、60代までは市の畑を借りて畑仕事を楽しんでいましたが、腰や膝が痛くなってからは、自宅の小さな庭で花を育てることを楽しんでいました。リビングに面したベッドから見える位置がその庭なので、いつでも花や緑を眺めることができるのです。
ベッドのわきが小さな庭
●好きなものに囲まれて
若い頃は紅型の染め物を楽しんでいた母。染めた反物から私と妹の振袖や小紋を作ってくれました。使っていた型をそのまま壁に飾ったり、端切れを額に入れたりして飾っています。猫が好きなので、長く飼っていましたが今は置物だけでがまんしています。
紅型の型
紅型、染めた布
猫の置物
●近所付き合い
以前は、生活クラブ生協に入っていて、地域の仲間といっしょに食材を班で取って仕分けをしたり、班会議をしたりと活動をしていました。そのせいか、今でもそのときの仲間の繋がりがあり、「セリを摘んできたわよ」と持ってきてくれたり、畑できゅうりがたくさんできたからと持ってきてくれたりする仲間の訪問は母を喜ばせます。
母にとってはもう40年以上住んでいる狭山市。駅まではバスで15分。西武新宿線で都心までは1時間はかからないベッドタウン。一方、飯能や秩父にも出やすいので、山歩きの好きな母は、友人たちと秩父のトレッキングを楽しんでいました。
狭山はお茶の産地、隣りの入間市とともにお茶畑が広がります
狭山は身近に自然が豊かなところです。だんだん年をとって、体が思うように動かなくなっても山並みを眺めたり、小さな庭作りを楽しめたりする環境は“自立した生活の維持”につながるものだと母の生活を見て思います。
母の家の近くの広瀬神社
広瀬神社の境内。お神楽の右にある大きな木は、樹齢7~800年のケヤキ 高さ30m、周囲6メートル
1人暮らしの高齢者がますます増えるこれからの日本。どんな住まい方がよいのか、家の設計は暮らしやすさに大いに関わるでしょう。けがをしないような安全な同線はもちろん、好きなことを続け、好きなものを身近に、自分らしい生活ができるような住まい方。少しでも長く自立した生活を送り、社会とのつながりをもてる工夫は、しっかり考えていかなければならない課題です。
建物だけではなく、心癒される自然と人とのつながりはとても大切なものです。子どもや孫は出来る限り会いにいきたいものですね。