バードストライクと川崎コンビナート 「えっホント? 危険すぎる新飛行ルート!」羽田空港問題

来春から運用が始まる羽田空港増便に伴う新飛行ルートでは、南風時15時からの4時間、最大80機が川崎石油コンビナート上空に飛び立ちます。世界に類を見ないコンビナート上空の低空飛行ですが、問題はもう一つ。B滑走路西向き離陸は飛び立ってすぐ、多摩川河口干潟を横切るのですが、ここはバードストライクのリスクが最も大きいところなのです。

 

第4回大田区議会報告・羽田空港問題
羽田空港対策特別委員会に全部で15本もの陳情(うち5本は付託外とされ審議されず)が提出されました。その中に川崎石油コンビナート上空への飛行ルート変更を国に求める陳情(元第95号)がありました。最終日、本会議場でのこの陳情の採択を求めての討論をしました。討論全文を報告いたします。

 


 

陳情の内容
この陳情は新飛行ルート案の南風時、B滑走路西向離陸、及び現行B、D滑走路の着陸やり直し(ゴーアラウンド)時、川崎石油コンビナート上空を低空飛行する危険な飛行ルートの変更を求めるものです。

川崎の巨大石油コンビナートにおいては、もし落下物などで危険物貯蔵容器や配管等のひび割れなどで、油の大量流失がおこれば首都機能や自然環境への悪影響が計り知れないということを理由としています。

 

 

コンビナート上空・川崎市と国との約束「飛行制限」
国はこれまで「原則として川崎石油コンビナート上空を避け、適切な飛行コースをとらせること、それ以外の航空機(つまりやむをえない場合)についても3000フィート、914m以下での飛行を行わせない」という「飛行制限」を川崎市に約束し、遵守してきました。

これは、1960年から1970年にかけての度重なる航空機事故を受けて、川崎市と国との歴史的なやりとりを積み重ねた結果の取り決めです。

昭和41年、1966年3月10日に川崎市議会は全会一致で「臨海工業地帯上空の飛行禁止に関する意見書」を採択しました。石油化学工場の多くに一触即発の危険物施設があり航空機が墜落した場合の惨事は想像を絶するものがあり、市民の安全を守るため「即刻本市臨海工業地帯を飛行禁止区域に指定されるよう強く要望する」という内容で、直後の3月29日にも同趣旨の請願が全会一致で採択されています。

さらに昭和45年、1970年7月、当時の市長と市議会が運輸大臣宛に「石油コンビナート地域上空の飛行制限措置強化を」と要望書を提出。それに対し、1970年11月に東京航空局長は回答、「原則として石油コンビナート地域上空の飛行を避ける」という東京国際空港長への通知、指示に至り、この「飛行制限」は、今日に至っています。

しかし、今回の飛行ルート案では、南風時、15時から19時までB滑走路西向離陸が1時間に20機、最大80機がコンビナートの上を低空で飛ぶことになり、いくら「できるかぎり早く旋回し、高度を上げて海側に抜ける」と国が言っても、コンビナート上空を通過することも、高度も3000フィートを下回ることも変わらず、「飛行制限」違反だと市議会でも議論になっているところです。
さて、陳情者が指摘するように、航空機事故は離陸直後に起こりやすいとはよく言われるところです。今年3月、157名の犠牲を出したエチオピア航空機においても8月のモスクワでのバードストライクによるエンジン停止による緊急着陸においても離陸直後の事故でした。万が一のB滑走路西向離陸直後の墜落事故は、川崎市民にとっても特に看過できないことです。

※図のむらさき色の部分が南風時のB滑走路からの出発経路です。コンビナートの上空を低空で飛ぶことがわかります。

南風時の新飛行経路について

 

バードストライクによる航空機事故は回避できるか
また市議会の記録によるとB滑走路西向離陸直後は、多摩川河口干潟を横切る形になり、バードストライクのリスクの高いルートではないか、その先は住宅地とコンビナートが拡がる、国はどのような対策を取るのか、という指摘がなされています。
2017年羽田発旭川行きのボーイング767-300型は離陸直後にスズガモの群れが右エンジンに衝突、C滑走路に引き返しました。
普通、バードストライク対策というと銃で空砲や実弾を撃ったり、爆音で鳥を威嚇するなどされていますが、それを「生態系保持空間」である多摩川河口ですることはできな
いはずです。

多摩川河口干潟は、環境省の「日本の重要湿地500」及び「モニタリングサイト1000事業」におけるシギ・チドリ類調査地に、また国土交通省により策定された多摩川水系整備計画でも「生態系保持空間」に位置づけられ、国際的な鳥類保護組織であるバードライフ・インターナショナル(BirdLife International )が選定した重要野鳥生息地(IBA:Important Bird Area;「東京湾奥部」)にも指定されているのです。大田区にとっても貴重な水辺空間です。

国交省の報告では2018年度のバードストライクの件数は1434件で羽田がダントツに多い157件です。全国の空港の1434件のうち、事故が1件、航空機損傷が397件、引き返しなど計画変更が16件、離陸中止が7件です。バードストライクが最も多いのは離陸滑走時と上昇中で全体の36.6%だといいますから、まさにB滑走路西向離陸直後の多摩川河口干潟をどのようにとらえるかは大きなポイントです。

 

 

コンビナート災害とは
国は落下物対策などできうる限りの安全対策を講じているでしょうが、自然環境の中で起こりうる事象もヒューマンエラーも完璧になくすことは不可能です。

巨大なコンビナートは、高圧ガス製造工場や石油関連の工場群、東芝原子力技術研究所の研究用原子炉もあります。墜落事故が起こった場合の恐ろしさは想像を絶するものです。

今年の第2回川崎市議会での審議の中で消防長がこのように答弁していました。「石油コンビナート等特別防災区域において航空機からの落下物があった場合には、危険物施設等の火災や破損及び危険物等の漏洩などが、さらに、航空機が墜落すると、複合的な災害に進展し、多数の死傷者の発生が危倶されるところでございます」と。
いくら防災計画があっても、消防体制があっても、墜落すれば災害を防ぐことはできないのです。

 

「国の責任」ですますことができるのか
これまでも羽田空港対策特別委員会では様々な観点からの新ルート案への危険性が指摘されてきたところですが、理事者見解は「国の責任においてなされることです」に終始していました。

一体、国の責任とはどういうものでしょうか。新飛行ルートにより死亡事故がおきたら、どのように保障がなされるのでしょうか。コンビナート火災で有毒ガスが流れてきて対岸の大田区民の多くが中毒症状になったらどんな保障が行われるのでしょうか。だれが、どう責任をとるのでしょうか。原発事故ではだれ1人責任をとった人も、処分をされた人もいませんでした。

先日、11月30日には、ソウル発のピーチ・アビエーション808便が着陸の許可を受けて滑走路に進入したところ、作業車が同じ滑走路を横断していたという重大インシデントがありましたが、“ありえない”ことが起こるのが現実です。

 

区議会は新飛行ルートを容認すべきではない
B滑走路西向離陸、コンビナート上空への離陸は陳情の指摘通り、世界に類を見ない危険な飛行ルートであり、具体的な対策が十分ではないことからも、この計画を区民の生活を守る立場である区議会は容認するべきではなく、この陳情を採択すべきです。

最後に今回は5本の陳情が付託外になり、審議されませんでした。このことは提出者に説明され、納得を得たのでしょうか。区民の意見は最大限尊重されるべきであり、今回の措置は大変残念です。以上、討論といたします。

★結果(大田区議会としては不採択)

この陳情の採択に賛成だったのが、共産党、立憲民主党、緑の党、フェアな民主主義、大田・生活者ネットワーク。

反対だったのは、自民党、公明党、令和大田区議団、無所属をつらぬく会、大田無所属の会、大田区民の会令和、都民ファースト。

【参考】
羽田空港対策特別委員会で審議された陳情への討論
8本の陳情に対する討論はこちらでご確認いただけます。