保育の市場化は何をもたらすのか 保育の質は”雇用の安定”が基盤。行政の果たす役割とは?

保育の市場化は何をもたらすのか

  大田区、公立幼稚園は2009年に全廃。保育園も次々民営化。

  

大田区においては、2009年に9箇所あった公立幼稚園が全廃になりました。

当時、私は私立幼稚園に務めていましたが、公立幼稚園が幼児教育の本質「子どもの自発的な遊びを重視し、その遊びを深めること」を追究し、公立ならではの研究を積み重ねていることに大きな期待を寄せていました。

 

たとえば、小・中学校との連続性の中で、各年代でどのような教育的な配慮が必要かなどの研究は今の時代が抱える問題「不登校」や「いじめ」などをどう解決していくのかなど発達過程の中のポイントを探ることにつながっていたのではないかと思います。また障害児の受け入れも私立幼稚園は、圧倒的に少なく、公立幼稚園が積極的に担ってきました。

 

私立幼稚園の場合、経営を考えたときに“子ども目線より親目線”に偏る危険性があります。「子ども主体」という保育の本筋を堂々と言える公立幼稚園があることで、私立幼稚園がその独自性を打ち出しても、「保育の意味」を捉える上で、バランスが取れていたのだと思います。ですから公立幼稚園の全廃は今でもとても残念に思っています。

 

そして今、大田区は認可保育園の民営化をどんどん進めています。幼稚園にしろ、保育園にしろ、人を育てる“保育”に対する公の責任を考えさせられます。以下、保育園の民営化に反対する討論です。

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(2021年度第1回大田区議会定例会にて)

  • 第23号議案「大田区立保育園条例の一部を改正する条例」に反対の立場での討論

 

大田区には現在、認可保育園が区立39園、私立152園あります。大田区は拠点園18園だけを残して、あとは民営化するとの方針を打ち出しており、今回の条例は仲六郷保育園を民営化するもので、残る区立園は38園となります。

 

保育園はいうまでもなく、児童福祉法に定められた児童福祉施設であり、子どもの命を育み、その成長発達を支え促す役目を果たす施設です。子どもたちは保育士と信頼関係を結ぶ中で、安心して生活をし、遊び、身体能力を獲得し、認識力や感性を高めていきます。人格形成期であり、基本的な自分への自信や意欲や好奇心など、その後の人生に大きく影響する土台作りの重要な時だといえます。保育の質は、子どもがすこやかに、心豊かに育つ鍵でもあり、社会の未来を作ることにもなるのだと考えます。

 

2016年の児童福祉法改正の大きなポイントは第1条に子どもの権利について書き込まれたことです。第1条には、「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること、その他の福祉を等しく保障される権利を有する。そして第2章では児童の最善の利益が優先して考慮されるように、と明記され、地方公共団体の児童育成のための責務が明記されています。この責任を果たす重要な施策が「保育」ではないでしょうか。

 

そして子どもの成長と共に、家庭を支える子育て支援の本丸が保育園です。特に初めての子育て、助けてくれる人が近くにいない親にとっては、保育園は頼れる支援者です。ある母親はなんでも自分でやりたがる2歳児のいやいや期にイライラしていましたが、保育士に「自分でやろう」とする主体性の大切さを教えられて見守る大切さを学んだといいます。

 

虐待が増えている昨今、保育園が子どもの成長の過程や行動の意味を伝えることや、親を励ますことは本当に重要です。困難のある親をもしっかりサポートし、必要があれば適切な機関につなぐこと、困難家庭をいち早く発見することなど、家庭をまるごと見守ることが、児童虐待の減少にも寄与するという識者もいます。保育の専門性、保育園の果たす役割の大きさがわかります。

 

2000年から始まった株式会社やNPO法人の保育園への参入ですが、懸念材料の一つは委託費の弾力運営が認められていることです。多額の資金を積立に回すことも可能で、人件費が30%を切るほど異常に少ない株式会社立保育園があることも現実です。雇用環境は保育の質にも大きく関わります。

 

ある私立認可園の保育士からはこんな話を聴きました。「親からクレームをもらわないように」が鉄則になっているので、朝ご飯を食べてこないなど、生活リズムの乱れのことで親に指導したいけれどできない、と。つまり親に何か注意をすると快く思わない親もいる。摩擦をおこさないように、ということです。

 

保育園はサービス提供者で、保護者はお客様、客を逃したら経営に響くから、たとえそれが子どもにとって必要なことであっても触れないようにするということです。

 

また園長は雇われ園長で、経営者は現場にいない、保育園の運営は経営者の方針に従わなくてはならず、現場の子どもの状況からそのニーズを捉えて、保育を作っていきたいと考えていた情熱のある保育士は落胆してその保育園をやめたという話も聴きました。

 

保育園はだれのためにあるのか、考えさせられます。

 

民間の保育園が全て悪いというわけではないですが、直営の制度的な安定した雇用のなかでの子ども主体に徹した保育、先輩保育士から受け継がれていく保育の技術はかけがえのないものです。18園は指導的な立場をとっていくとされていますが、分母が大きすぎます。

 

行政コストの削減を狙った施策が、後々の社会課題を生み出す要因になったら本末転倒です。民営化はここで一旦見直すべきです。

 

子どもの幸せを真ん中に保育園と保護者が共に歩んでいく保育環境を保障する大田区であることを願い、23号議案には反対いたします。