ホームレスを排除しないで、人権を尊重し、その生活や医療福祉を保証してほしい(第1回大田区議会定例会・陳情審査報告・2020年3月25日)

新型コロナウィルス対策によって、様々な業種でその経済活動を止めざるを得なくなり、結果、仕事を失い、生活困難に陥る人が多くなるのではないかといわれています。そうでなくても非正規労働という働き方では何かの拍子に仕事ができなくなると即、家賃を払えなくなり、住む場所を失ってしまうことがあります。ネットカフェを転々とする“わかりにくいホームレス”も増えていると聞きます。

大田区議会に「大田区に、ホームレスを排除しないで、人権を尊重し、その生活や医療福祉を保証する対応を求める陳情」が出され、大田・生活者ネットワークはこれに対しての賛成討論をしました。以下、全文です。

 

これまでの国内での状況から大きなイベントが開催されるときや大型開発が行われるとき、ホームレスの人への強制撤去の問題が取り沙汰されてきました。

また昨年の台風では避難所に逃げてきたホームレスの人を入れなかった台東区の対応は人道的にも問題で、災害時ですから生存権にも関わることで、自治体としてそういう判断をしたということに驚きを禁じ得ませんでした。しかし一方、税金を納めていないのだから避難所に入れなくても当然だなどの意見もツイッター上で少なくなかったと聞きました。

 

これまで何度も繰り返されてきた少年たちのホームレス襲撃事件、少年たちは悪びれることなく、「役に立たないやつはいない方がいい」というほど、自身の心が病んでいるのと同時に人権意識の欠如は何が原因なのかを探らなければなりません。

社会に格差が広がると人への寛容さがなくなり、自分より貧しい人への蔑視、差別の感情が生れやすくなるといいます。弱者へのバッシングが横行する社会は、健全な社会とはいえません。

 

本来、私たちが目指すべき社会のあり方、人権を重んじる姿勢を、自治体が体現することで、私たちはだれもが安心して暮らしていけると思えるのではないでしょうか。

 

大田区は東京都の事業の中で、ホームレス支援を社会福祉法人・有隣協会に委託して、有隣協会が蒲田を月2回、大森3回、六郷1回、回るほか、蒲田生活福祉課が年に一度、看護師と一緒にガス橋から大師橋まで回り、声がけをしながら支援をしているということで、大変評価するところですが、今後も人権尊重の観点からの取組みとその意志を表明することは重要です。

 

陳情者も月に2回夜間、数時間をかけて、蒲田と大森のホームレス支援を10年近くも続けてきた医師です。聴診器を以て、健康状態を確認しながら、食料や下着を配っていきます。

以前、お聞きした話では、野宿者の多くは、非正規労働で働いていて、なんらかの事情で働けなくなり、住居を失い、ホームレスになったという人が多く、その後精神疾患になった人もいるとのことです。中にはブラック企業で働いていた若者が給料未払いに合い、住むところを失ってホームレスになったということ、虐待を受け、養護施設に入所、退所して働くが長続きせずにホームレスに、という青年もいた、という話も聞きました。

社会のひずみのなかで生み出される問題に私たちは向き合い、改善策を考え、セーフティネットを強めていかなければなりません。一つの陳情から社会の問題、課題に改めて気づかされ、自治体として、議員として、何をすべきかを考えさせられます。

 

さて陳情審査のあり方についてですが、昨年、議会事務局に調査依頼をして、都内の自治体の28年から30年の陳情・請願の採択率を調べてもらいました。大田区の採択率は6.4%で23区中、17位でかなり低い方です。1位の文京区は36.9%です。都内の26市部のうちでは小平市がトップで72%でした。

請願や陳情は市民の政策提案であり、よい意見であれば、それを取入れることで、自治体運営や区民の福祉向上に寄与することもあるはずです。請願・陳情の採択率の高い自治体はそのほとんどが陳情者の意見陳述の制度を持っていました。委員会の休憩中に行われるところがほとんどで、効果としては、“請願・陳情について細部まで理解が深まる”、“文面からは把握できない陳情を提出するに至った経緯をしることができる”、などとしています。

 

今回、私はたまたまこの陳情者の主催している夜回りに1度同行したことがあり、お話を伺ったことがあったので、この陳情を出される背景がわかりました。しかし多くの場合、様々な現場の事情を十分に知ること、察知することは難しいものです。大田区議会も委員会審議において、よりよい判断につなげるために陳情者の意見を聞いたり、質疑応答ができる仕組みを作れるとよいのではないかと思いました。

 

“だれをも見捨てない大田区”になるために“人権尊重”の努力を続けてほしいと願い、この陳情の採択を希望します。

 

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残念ながらこの陳情は「不採択」となりました。陳情に賛成したのは日本共産党大田区議団、大田区議会緑の党、フェアな民主主義、大田区民の会令和、大田・生活者ネットワーク。反対したのは自由民主党大田区民連合、大田区議会公明党、令和大田区議団、立憲民主党大田区議団、無所属をつらぬく会、大田無所属の会、大田区議会都民ファーストの会。