虐待を疑われ乳幼児と親が分断される  子どもの利益(権利)は守られるか ~児童相談所の課題と苦悩~

18日、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課主催の「児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会」(オンライン)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_554389_00020.html

を傍聴したので、簡単に報告いたします。

 

「虐待を疑われ、望まない長期の親子分断」

事例が紹介された。

Sさん夫婦の子どもは、つかまり立ちを始めたばかりの時に転倒し、頭を打ち意識を失い、救急搬送された。そのまま、親へは連絡なしに、病院から直接、児童相談所によって保護されてしまう。虐待とみなされたのだ。それ以後、児童相談所からは納得のいく説明はなく、対等に話せる場も持ってもらえない。子どもは乳児院に入れられ、面会は週に1回1時間だけだった。「捜査がすんだ」といって戻されたのは1年4ヶ月たってからのこと。父親は“単なる事故であったのに、貴重な乳幼児の親子の時間が奪われた”と、くやしさを交えて語った。

 

事故か虐待かわからない場合はどうするのか、事実の確認の場の必要性、父親からは“子どもの最善の利益”をどう保障するのか、質の高い一時保護の在り方を願うと、現状の制度の見直しが求められた。

 

●「一時保護所には子どもがあふれている!」千葉県児童相談所の課題

千葉県の報告では、現在6つの児童相談所があるが、一時保護所の入所率は100%。増え続ける虐待に対応するために一時保護所併設の児童相談所2つと民間の児童養護施設を2つ増設し、定員を大幅に増やすと報告がなされた。

 

しかし一時保護所がいっぱいなのは、死亡事例があったこともあり、保護解除に慎重になり、保護の長期化につながっていることも要因だという。

 

検討会では、権利の制限にあたり、司法的機能と福祉的機能を分ける必要があるのではないか、ただ増設するだけでよいのか、適正な人数をどう考えるか、里親を増やすべきではないか、などの指摘がなされた。

 

里親は簡単には増えないこと、里親で不適応を起す子どももいること、一時保護所の適正な人数についてのガイドラインはなく、取り急ぎの対策での定員増である、という説明がなされ、児童相談所の切羽詰っている状況が伺われた。

 

また一時保護では保護者との対立構造が起きやすく、それによって支援に繋がらないことが大きな課題であり、職員の疲弊と人材確保の難しさが課題との報告もあった。

 

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虐待の増加は深刻です。それにより児童相談所の職員一人の対応件数は増え、業務は過酷になり、対応の限界を超えているとは、以前から指摘されているところです。それによって個別の丁寧な対応ができなくなれば、子どもの心のケアや家族支援や家族の回復にもつながらない恐れがあります。

 

ましてや、一旦、虐待事件が大きな話題になると児童相談所は非難されがちで、結果、警戒を強めることで別の問題を生むようになることが今回の事例でもわかります。

 

このままでは児童相談所はパンクしてしまうにちがいありません。厚生労働省が児相の問題について開かれた検討会の場を持ち、事例の公表まで行っていることは評価するところですが、引き続き、実態把握と当事者の声を聴くことから児童相談所の在り方を考えていく必要があります。

 

今回の検討会では、保護の在り方において“子どもの権利”“子どもの最善の利益”がどうすれば保障されるのか、重要な課題が提起されました。適正な仕事量の中で、研究と実践、日々の振り返りの中で、専門性を高めていくのが児童福祉であることを考えるとき、まずは、職員態勢の拡充は必要です。

 

雇用問題や経済格差、子育ての孤立化など社会全体で虐待の要因を探ることと小手先ではない対策を考えること、そして地域で“どうしたら児童虐待をなくせるか”ということに真剣に取組んでいくことが求められています。

 

※今後の「児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会」(オンライン)の予定はこちらで確認し、傍聴を希望する場合は、その都度、登録が必要。https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html